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4-32

 ディアスは笑みをたたえるレディに向かって手をかざした。

ディアスの周囲を旋回していた剣が空中でピタリと静止して。

いでレディ目掛けて一斉に襲いかかる。


 レディはたずさえた巨大なハサミを振るって迫り来る剣の1つを弾いた。

それと同時に周囲を取り囲んでいたレディ達がハサミを振りかぶりなら跳躍。

次々と剣を斬り払う。


 弾かれた剣が床や壁に突き刺さった。


 レディ達は着地すると、ゆらりと体を起こす。


 ディアスは視線を走らせて対峙するレディ達を見た。

いで顔を歪める。


「ケケ、さすがに魔力の食い過ぎか」


 アムドゥスがディアスを観測しながら呟いた。


 ディアスの身体を覆う刃がぼろぼろと崩れ始めて。

取り込んでいた6本の剣が転がり落ち、ディアスは元の姿へと戻った。

破れたマントや衣服の隙間から自食の刃が人の形を保つ範囲で残されているのが見える。


 明々と燃え盛る炎と異臭を放つ煙の中で、レディ達のなめまかしい肢体が照らし出されていた。

皆一様に妖艶ようえんな笑みを浮かべ、その手に握る凶刃を構える。


 ディアスは自身の剣を拾い上げた。

両手に握った剣を構える。


「…………アムドゥス」


「ケケ、仕方ねぇなぁ。後々を考えたら魔力はあんま使えねぇが────」


 アムドゥスはその形を変えた。

黒いマントとなってディアスにまとう。


 ディアスがマントに視線を落とすと、留め具には獣の頭蓋骨があしらわれていた。


 マントから黒い触手が数本伸びて。


「剣拾いくらいはしてやるぜぇ」


 アムドゥスはそう言うと広間に散らばるディアスの剣を拾い上げた。

抜き身の剣をディアスの周囲にとどめる。


 ディアスは周囲の炎に視線を向けて。

にじり寄るレディ達を前に思案した。

いで自分とアムドゥスが来た方向とは逆の通路に目を向ける。


 ディアスは両手の剣を振りかぶりながら駆け出した。

それを見てレディ達が一斉にディアスに殺到する。


 ディアスが目指すのは来た方向とは逆の通路。


「逃がしませんわ」


「貴方はここで」


「『わたくし』に殺されるのですよ」


「抵抗はお止めなさい」


「貴方はよくやりました」


わたくしの魔宮のボスを討ち破ったのですもの」


 レディ達はわらいながらディアスに迫った。

ハサミの刃を大きく開き、ディアスにおどりかかる。


 ディアスは両手に振りかぶった剣を同時に投げ放って。


「『その刃、疾(ソード)風とならん(・ガスト)』!」


 2つの剣が光を纏って加速。


 さらにディアスはアムドゥスから剣を受け取り、続け様に投げ放つ。


 ディアスは牽制けんせいしながら通路に向かって走った。

行く手を阻むレディ達を剣で斬り裂き、彼女達の振るう刃をいなして。

その刃、疾(ソード)風とならん(・ガスト)』によって射出されて剣はアムドゥスが黒い触手を伸ばして回収する。


 ディアスはレディの攻撃を次々とくぐり、通路へと飛び込んだ。

通路を駆け抜けながら背後を横目見ると、レディ達が追ってきているのが見えて。

ディアスはククッと笑いを漏らす。


「ケケ、考えはあるのかぁ? ブラザー」


「ああ」


 ディアスが端的に答える。


 そしてディアスは時折背後に向けて剣を投げ放ちながらさらに通路を走り抜けて。

ついにはレディの展開した魔宮を抜けた。

ディアスはすかさず両手に握った剣を構えて。


「アムドゥス、刃を」


「あいよ、ブラザー」


 アムドゥスが答えた。

いでディアスの両手に握られた剣の刃にその身体の一部をまとわせ、剣身けんしんを黒へと染め上げる。


 ディアスは黒く染まった剣を左右の壁に突き立てた。

その切っ先はアムドゥスの力で容易く壁を斬り裂いて。

そのまま切っ先を壁に走らせながら闇に飲まれた通路の先へ。


 ディアスは足を止めた。

背後を振り返る。


 振り返った先にはレディ達がすぐそこまで迫っていた。


 ディアスはなけなしの魔力を燃やして。

その瞳に灯る赤い光がその輝きを強める。


「顕現しろ、俺の『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』」


 ディアスは無数の刃を展開した。

その刃が壁に走る無数の管を斬って。


 甲高い音。


 そして小さな火花が、散った。


 ディアスが駆け抜けながら斬り裂いていたのは通路の壁に張り巡らされたガスの供給パイプ。

そこから漏れ出したガスに火花が引火して。


 激しい閃光と共に燃え盛る業火。


 ディアスはすかさず展開した剣を球状に閉じて自身を囲った。

いで爆炎の衝撃にあおられる。


 炎は通路に充満するガスを食らい、再現なく膨れ上がって。

通路を凄まじい勢いで駆け抜けると、ディアスを追ってきたレディ達を飲み込んだ。

その身体を焼きながら、なおも炎は通路を走る。

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