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4-31

 その剣が歪に形を変えて。

肥大化する切っ先。

剣身けんしんの腹の片面にはあばらのような装飾が現れ、剣全体に無数の切れ込みが走る。


 いでディアスの身体をむしばみ、またその補完をする自食の刃も形を変えた。

人の形をかたどっていた無数の小さな刃がそそり立ち、その姿を異形へと近づける。


 胸から左肩へと伸びる連なる刃。

その無数の刃は肩から大きく張り出すと垂れ下がって。

ディアスの展開していた刃の衣を取り込むと、その姿は翼のようになった。

ディアスの右胸の下からは、鋭い切っ先が次々とよじれるように突き出す。

左の首筋から連なる刃が頬とこめかみへと続き、額に生えた刃が角のように。

そして右腕に刃が折り重なって手甲のようになった。

その側面からは肘の方に向かって大きな片刃が伸びている。


「ずいぶん化け物じみた姿に変わりましたわね」


 ディアスの姿を見て、広間の中央にいるレディが言った。


 ディアスは手元に残った7本の剣のうち、剣身けんしんを完全に失った剣を除く6本を次々と抜いた。

その剣をディアスの身体から伸びる刃が取り込んで。

歪な刀剣の翼に4本。

右腕を覆う刃の手甲に2本の剣が組み込まれる。 


 魔物は波のように揺らめく自身の髪の中で上下に揺れていた。

髪の陰からぎょろりと見開かれた目がディアスを注視している。


「ケケ。それじゃあ、お前さんの言う戦い方がどんなもんか見せてもらうぜぇ。ケケケケケ」


 アムドゥスが言った。


 ディアスはアムドゥスを一瞥いちべつすると魔物へと視線を戻して。


「俺が戦って見せなくても、お前ならもう俺が何をしようしてるかは分かってるだろ」


「ケケケ、いいからいいから」


 アムドゥスは羽を振って、行け行けと促す。


 ディアスは振りかぶっていた剣を投げ放って。


「『その刃、疾(ソード・)風とならん(ガスト)』!」


 光をまとって加速する剣。


 その剣を追うようにディアスは駆け出した。

左肩から伸びる刀剣の翼の切っ先が肉の床の上を走る。


 魔物はしわがれた声で叫んだ。

響き渡る絶叫と共に、魔物の髪がおどる。


 束ねられた髪がディアスの投げ放った剣の行く手を遮り、その側面に剣が突き刺さった。

そのまま蛇のようにうねりながら床の上を走る魔物の髪。

その髪はディアスの眼前へと迫ると軌道を変えて。

大きく上へ跳ね上がると、ディアスの頭上からその先端を突き出す。


 ディアスは左肩から伸びる翼へと意識を向けた。

その翼を構成する刃がギチギチと軋んで。

いでその翼が動いた。

それは腕のように持ち上がり、そこに備えた鋭いつめで迫り来る魔物の髪をぎ払う。


 舞い散る激しい火花。

そしてディアスの剣が与えたダメージが魔力となって。


 ディアスは魔物の操る髪を、取り込んだ6本の剣を駆使しながら斬り裂いて進んだ。

接近を拒み、襲いかかってくる魔物の攻撃を斬り払いながら距離を詰める。


 そして魔力が充填された剣。


「ソードアーツ────」


 ディアスは剣の魔力を、続けざまに解放する。


「『灼火は(ブレイジング)分かつ(・クリーヴ)』────」


 刃に灯る紅蓮の炎。


「『深き闇は裂きて(ダーク・リッパー)』────」


 刃にから立ち昇る暗黒の魔力。


「『鋭き毒(ゲイル)、刹那に疾る(・スティングレイ)』────」


 刃に走る紫色しいろの閃光。


「『裂き乱る刃風(マーダー・)、鮮血の花園(ガーデン)』……!」


 刃にまとう揺らめく刃風じんぷう


 ディアスは魔物へと大きく踏み込んで。

体をよじり、大きく振りかぶった刃の翼を叩きつけるように振り抜いた。

その一撃は魔物の武器であり鎧である髪を焼き焦がし、断ち切り、毒で侵し、ズタズタに斬り裂いて。


 あらわになる魔物の本体。

その姿を晒した魔物は再び絶叫した。

無数の髪が放射状に拡がり、その鋭い針のように研ぎ澄まされた尖端がディアスに迫る。


 ディアスはすかさず両手で自身のまとう剣を次々と抜いた。

歪な剣がディアスの周囲を旋回して。


「ソード・テンペスト……!」


 ディアスが叫ぶと旋回する剣はその速度を増した。

いで意思を持つように縦横無尽に刃が宙を走り、魔物の攻撃を防ぐ。


 ディアスは無数の剣に守られながら跳躍。

そしてその視線のすぐ先には魔物の姿。


 ディアスは魔物の骨張った肩を踏んでその体を押し倒した。

手甲の刃を振るってその首を斬り落とす。


 胴体から斬り離された頭部が自身の髪の中に埋もれた。

うごめいていた髪がみるみる勢いを失い、最後は力なく床に広がる。


 この空間いっぱいに広がった髪はディアスのソードアーツで未だに燃え続け、髪の焼け焦げる異臭が鼻をついた。


 ディアスは広間の中央に立つレディへと視線を向けた。


 その先から響くパチパチという小さな音。

レディはディアスに向けて拍手をしていて。


「お見事ですわ」


 余裕の表情でディアスを称賛する。

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