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レオンハルトはフェリシアが答えると肩をすくめて。
「……まぁ性格や普段の言動、行動を考えれば聞くまでもない。あのクズ兄貴」
「それでも確認しないわけにはいきませんので」
衛兵が言った。
「それでは継戦のできない兵は残して再編成! 陣形を組み直して進行を」
別な衛兵が言うとレオンハルトは首を左右に振って。
「負傷した兵も連れていく。城内はすでに危険だ、ここに残していくわけにはいかない」
「ハッ! 負傷者に手を貸せ!」
衛兵が指示により、衛兵は負傷した仲間達に肩を貸した。
その様子を見てうなずくレオンハルト。
だがその顔が突如痛みに歪んで。
人のものへと戻した自身の右腕を見ると、接合部が剥がれかけていた。
腕の自重を支えられずに接合部がミチミチとほつれていく。
「スペルアーツ『治癒活性』」
レオンハルトは右腕に治癒のスペルアーツをかけた。
接合部から裂けていた腕がひとまずは繋がって。
だが腕の痛みは引かない。
そして右手がレオンハルトの意思とは関係なくピクピクと動く。
「大丈夫ですか?」
フェリシアがレオンハルトに訊いた。
「大丈夫だ。まだあと1、2回くらいなら使えるだろう」
「わたしが心配してるのは気味の悪い竜の首ではなく、黒の勇者様ご自身なのですが」
「ああ、大丈夫だ」
「無理はなさらないでくださいね」
「…………」
「お返事がありませんが」
「分かってる。極力無茶はしない」
レオンハルトは左手で握る大剣を肩に担いだ。
「お兄様を最後に見たのは下です」
フェリシアが言うとレオンハルトは階下へと続く階段に視線を向けた。
陣形の先頭に立ち、衛兵達を引き連れて進む。
ディアスは足を止めた。
その目の前に広がるのは闇に飲まれ、不気味な静寂に包まれた街の一角。
ディアスの肩にとまるアムドゥスはその光景を見て。
「ケケケ、こりゃ厄介だな」
アムドゥスはそう言うと周囲に視線を走らせる。
ディアスは腰に下げたランタンを取った。
そこに小さな火を灯すと腰のベルトに再び吊るす。
そしてディアスは両手に剣を構えながら闇の中へ。
だがランタンの明かりは弱く、ディアスの周囲しか照らせていない。
「…………エミリアは?」
唐突にディアスが訊いた。
「ケケケ。大丈夫だ、ちゃんと生きてるよ。これで何度目だぁ? エミリアが死にゃあ契約してる俺様も消えるんだから、俺様が無事なうちは安心してな。まぁ、クソガキの方はどうかわからんが。魔人に拐われたんなら今頃腹ん中かもな。ケケケケケ!」
ディアスはぎろりとアムドゥスを睨んだ。
「ケケ、そんな怒るなよブラザー」
「…………」
ディアスはアムドゥスから視線を外した。
闇の中を警戒しながら進んでいく。
「にしても意外だなぁ。嬢ちゃんはともかくクソガキにも情が湧いてたとはな」
ディアスは答えない。
人通りのない真っ暗な通りを進んでいく。
「まぁ、ブラザーの気持ちはそれとなく察しがつくが……。だからこそ1つ忠告してやる。今のままの接し方じゃいずれ2人はお前さんのもとを離れるぜぇ?」
「離れる?」
「ケケ」
「どういう意味だ」
「それは自分で考えた方がいいことだぜ、ブラザー?」
「はっきり言えよ」
「お前さんはネバロに魔人にされた時から変わってねぇってことよ。ケケケケ」
ディアスはふと足を止めた。
風上の方から漂ってくる臭いに気づいて。
「血の、臭いか」
ディアスは駆け出した。
臭いを辿り、太い通りから路地へと入って。
そしてディアスは何かを踏むと足を止めた。
視線を下ろすと、そこには人間の腕。
さらに周囲に目を凝らすと人の手足が無造作に散乱している。
「ケケケ、派手に喰い散らかしたな」
アムドゥスが言った。
ディアスは人の四肢が無数に転がる路地を進んだ。
その先には鉄製の扉があり、その扉が開け放たれている。
「この先か」
ディアスは中を覗き込んだ。
扉の先は狭い通路になっていて、その通路が左右に伸び、その壁には無数のパイプが走っている。
パイプにはいくつものつまみが並び、つまみの下からさらに細い管が走っていた。
「……なるほど。ガスの供給パイプか」
ディアスが言った。
「ケケケ、この辺りの明かりが落ちてたのはこの通路のどこかで魔宮を展開したからだな。おそらくこの通路なんかは魔宮封じか手薄だったかそもそも無かったんだろうぜぇ」
アムドゥスは壁に走るいくつものパイプを見るとふむふむとうなずく。
「つまりこの先に複製を生み出す魔人の大元がいるんだな」
「ケケ、大元って言い方には語弊があるかもぜ? 最初に俺様達が追った魔人の女はさっきまで戦ってきた奴らと違って魔人として成熟してたが、それでも最初の個体じゃなかった」
「ならそのオリジナルを探し出す必要があるのか」
ディアスは通路の先を睨みながら言った。
「ケケケ、それはどうだろうなぁ。そもそもそのオリジナル、まだ生きてんのか?」




