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「ちゃんと子供の頃考えた連携が機能してる!」
フェリシアが言った。
レオンハルトを見て嬉しそうに笑って。
だがすぐに表情を引き締め、周囲に視線を走らせる。
周囲にはレオンハルトとフェリシアを取り囲むレディ達の姿。
手傷を負っている者、戦闘不能あるいは倒して灰になった者もいるが、まだ多くのレディが無傷あるいは継戦可能な状態にあった。
周囲からいくつもの赤の視線がレオンハルトとフェリシアに向けられて。
言葉や手振り、目配せ1つなく連携してなおも2人に襲いかかる。
フェリシアを庇いつつ応戦するレオンハルト。
だが階下から聞こえてきた音を捉えると、にやりと笑った。
フェリシアも遅れてその音に気付いて。
階下から聞こえるのは無数の足音。
それと同時にガチャガチャと金属が鳴る音が聞こえる。
「レオンハルト様!」
階下から現れた衛兵の一団。
その先頭に立つ男が叫んだ。
抜き放った剣を掲げながら前進し、そのあとを他の衛兵達が続く。
「スペルアーツ『速度強化』!」
衛兵達に加速のスペルアーツを付与するフェリシア。
衛兵の一段は阿吽の呼吸で陣形を組んだ。
密集して盾を構え、肩を引いて上段で剣を構えながら突進する。
レディは迫り来る衛兵の一団を見ると、その手に携える巨大なハサミを衛兵達に向けた。
「フェリシア!」
「うん!」
レオンハルトの呼び掛けにフェリシアは答えて。
「スペルアーツ『魔象強化』」
「スペルアーツ『魔象強化』!」
レオンハルトとフェリシアが同時に唱えた。
陣形の左右の端にいる衛兵にそれぞれバフを付与。
そのバフを受け、左右の衛兵はスペルアーツを発動する。
「スペルアーツ『防壁魔象』……!」
「スペルアーツ『防壁魔象』!」
スペルアーツを発動した2人の衛兵の前に現れるのは光の壁。
魔力で編み上げられたその壁は左右の術者を繋ぐように展開した。
その壁はレディの攻撃を防ぎながら術者の進行に合わせて前へと移動する。
だがその壁は攻撃を受ける度にひび割れて。
ついには光の壁の一部が砕かれ、その欠片が1人の衛兵の頬を掠めた。
すかさずその破れた防壁の隙間を狙ってレディがハサミを振るう。
迫り来るのは頑強な鎧ごとを人を紙屑のように両断する凄まじい切れ味を誇る凶刃。
衛兵の構えた盾は火花を散らすと容易く斬り裂かれる。
「うぉぉおおお…………!」
だが衛兵は怯まない。
衛兵は自身の腕を迷わず犠牲にしてレディのハサミの軌道をわずかにいなした。
痛みに顔を歪めながらも衛兵は歯を食いしばって。
右手に握る剣を渾身の力で振り上げる。
ハサミと剣のぶつかる甲高い音。
「はあっ……!」
そしてその隣の衛兵が振り上げられた剣と重なるように自身の剣を斬り上げた。
交差した剣がレディのハサミを跳ね退けて。
すかさず剣を斬り上げた衛兵は身を低くし、レディの懐に潜り込みつつ構えた盾で突撃。
盾による突進を受けて体勢を崩すレディ。
衛兵は斬り上げた剣を引き寄せると、盾の陰から切っ先を突き出した。
その刃はレディの左胸を貫いて。
手応えを感じてにやりと笑う衛兵の口許。
「────ぎ」
だが突然その口から漏れた短い声。
次いでシャキンと小気味良い音が響いて。
衛兵の視界がぐるんと回った。
そして噴き上がる血飛沫。
衛兵の頭が首から離れて落下する。
絶命の間際にその衛兵が見たのは妖艶な笑み。
レディの1人が、左胸を貫かれレディの胴体ごと衛兵の首を両断した。
「ふふふ、いくら束になろうとしょせん雑兵でしてよ」
嗤いながらレディがそのしなやかな足を振り上げて。
胴を失ったレディと首を失くした衛兵の身体をまとめて蹴り飛ばし、衛兵達の組む陣形へと飛び込む。
「まずい、陣形に……! 皆やられちゃう!」
フェリシアの顔に焦燥が浮かんで。
だがレオンハルトは自分とフェリシアに迫るレディに応戦しながら言う。
「信じろ。あいつらはそんなやわじゃない」
陣形の中へと飛び込んだレディ。
だがその眼前には無数の剣が閃いて。
すかさずレディは迫り来る剣をハサミで弾いた。
ハサミを袈裟に斬り上げて横薙ぎに迫る剣を払い、すかさずハサミを振り下ろして突き出された剣の切っ先を叩きつける。
その振り下ろされたハサミに足をかけて。
「仲間と腕の仇だ」
左腕を失った衛兵がレディを斬りつけた。
それ続いて周囲の衛兵も剣を振るい、レディの身体をずたずたに斬り裂く。
展開した光の防壁はほとんどその形を失っていた。
だが衛兵達は果敢に前進して。
その先から迫る無数の凶刃。
「『防御魔象』!」
フェリシアが衛兵の前に魔力の盾を生み出した。
それは容易く打ち破られるが、衛兵達はフェリシアのスペルアーツが生んだわずか数秒を活かして応戦。
幾人もの犠牲を出しつつ、ついにレオンハルトとフェリシアに合流する。
そして新たに組み直される陣形。
同時に衛兵達は携えていたポーションで傷を塞いだ。
手足を欠損した衛兵が何人もいたが、その目には闘志が燃えたまま。
他の衛兵達と同じように鋭い眼光でレディ達を見据える。
「遅くなりました、レオンハルト様」
衛兵の1人が視線はレディ達へと向けたまま、隣に並ぶレオンハルトに言った。
「いや、よく来てくれた」
レオンハルトはそう言うと1歩前へと踏み出して。
「さぁ、物量での有利もなくなったぞ。どうする? 『レディ』」