表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/397

4-22

 絶命している初老の男の姿を見て、フェリシアは大きく目を見開いた。

頭の中が真っ白になる。


「そんな……お父様…………」


 震える声音で呟くフェリシア。

その手がぎゅっと細剣さいけんの柄を握り締める。


「あらあら、もう見つかってしまいましたのね」


 女性の声。


 フェリシアが声のした方向に視線を向けると、そこには頬に青いバラのタトゥーを入れた魔人の女が──レディが立っていた。


「……ひっ」


 フェリシアの短い悲鳴。


 レディの周囲には重武装の鎧を着込んだ兵士数人の、鎧ごと細切れにされた遺体が散乱していた。

そしてレディの手で高々と持ち上げられた兵士の生首。

レディはフェリシアを横目見ながら、その首から滴り落ちる真っ赤な血を舌で受け止めて。

ごくごくと喉を鳴らしながら生き血を飲む。


 レディは赤く光る瞳でフェリシアを見つめていた。

いで生首を乱雑に投げ捨てると、フェリシアに向き直って。

その手に持った巨大なハサミが明かりを反射してギラリと光る。


 その時、フェリシアの背後からバタバタと無数の足音が響いてきた。

兵士の一段は玉座の間へと飛び込んで。

だがそこに広がる惨状とレディの姿を見ると絶句する。


「国王陛下……!?」


「魔人の侵入を許したか!」


「やはり城門を開け放ったのは間違いだったんだ」


 兵士の1人の言葉を聞いて、フェリシアは顔を歪める。


「逃がすな! 必ず仕留めろ」


 兵士の1人が槍を構えると言った。 


「城へと単身攻め込んでくるとはいい度胸だ。魔宮は使えんぞ!」


別な兵士も槍の切っ先をレディに向ける。


「…………」


 兵士の1人は無言でレディを見つめて。

その視線に気付いたレディが目配せした。

兵士は小さくうなずくと槍を両手で構える。


 槍を構えた兵士達は陣形を組み、レディを取り囲んだ。

レディは周囲の兵士達を見回して。


「あらあらあら。屈強な殿方に囲まれてわたくし、大変ピンチではないかしら」


 からかうような笑みを浮かべながらレディが言った。

唇に付いていた血をペロリと舐め取る。


 兵士達はレディへとにじり寄って。


 だがレディと目配せした兵士はその陣形を突如抜けた。

その手にたずさえた槍の魔力を解放する。


 放たれたソードアーツの一撃が玉座の間の壁をえぐった。

壁に埋め込まれていた魔宮封じの杭が壁ごと粉々に砕け散る。


「お前、何をやって……!?」


 ソードアーツを放った兵士へと周りの兵士から視線が注がれた。


「さて────」


レディが呟いた。

彼女の目に灯る赤の輝きを強めて。

そしてその周囲の景色が歪む。


「まずい!」


 兵士の1人が周囲の異変に気付くと、レディへとおどりかかる。


「顕現なさい。わたくしの『繁栄せよ、私は(ゲベーアムッター)種へと昇華する(・ファブリーク)』」


 だが兵士の攻撃より早く。

周囲の景色がレディの魔宮へと塗り替えられた。

そこに広がるのは薄緑色のうごめく肉の壁。


 レディは魔宮を展開し終えると、迫る兵士に向かって凶刃を振るった。

兵士の身体が断ち切られて床に崩れ落ちる。


 レディは妖艶ようえんな笑みを浮かべながら魔宮の壁へと視線を向けた。


 その肉の壁に間隔を開けて大きな水泡がいくつか現れると、その中に小さな粒が浮かんでいた。

その粒は瞬く間に大きくなり、それは赤子に。

そして少女に。

ついには大人の女性の肢体となって。

肉体の成熟を終えると、その身体は水泡から排出される。


 ゆらり。

ゆらり、ゆらりと。

魔宮から産み落とされた女性達は次々に立ち上がった。

皆一様に金色の長い髪を垂らし、その頬には同じ青いバラのタトゥー。

一糸(まと)わぬ彼女達はなめまかしい肢体をさらけ出して。

その目には赤の輝きを灯し、赤い眼差しが一斉に兵士達に向けられる。


「自身の複製を生み出す魔宮だと?!」


 兵士は驚愕をあらわに叫んだ。


 魔宮によって産み落とされた『女』──レディ。

そして彼女達へと視線を向ける『魔人の女』──レディ。

だがその姿は1人1人がほんのわずかに違っていて。

目鼻の位置、瞳の大きさ、鼻の高さ、唇の厚み、頬骨の位置、顔の輪郭、鎖骨の形、乳房の形と大きさ、脚の長さ…………。

その差異は数えきれない。


「複製ではなくてよ」


 魔宮を展開したレディが言った。

それに続いて。


わたくしわたくし


「でも同一の個体ではないわ」


「より美しく」


「より強く」


「『わたくし』は進化を続けるのよ」


 魔宮に産み落とされたレディ達が次々に言葉を口にし、その声が魔宮の中に反響する。


 レディ達はその手に得物を召喚した。

彼女達は巨大なハサミを握り、兵士らへと迫る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ