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4-19

 ディアスが剣を構えた先ではレディが不敵に笑っていて。

レディはディアスの剣を弾くと、巨大なハサミでディアスの胴を挟み込んだ。


「さようなら」


 レディはその手に力を込めると、ハサミの刃を閉じる。


────だが響き渡るのは耳障りな金属音。

胴を寸断する時のザンという小気味良い音ではなかった。


「残念だったな」


 ディアスが言った。


 ディアスの胴を補う自食の刃がギチギチときしんでいて。

レディは斬り裂いた服の下に無数の刃がより合わさっているのを見つける。


 ディアスは剣の切っ先をレディに向けた。

その剣の魔力を解放して。


「『ソードアーツ『鋭き毒、(ゲイル・ス)刹那に疾る(ティングレイ)』』!」

 

 細い剣身にまと紫色しいろの光。

ディアスがレディ目掛けて突きを放つと、刃が光の尾を引いて。


 レディは放たれた突きをかわすが、その首筋を剣閃けんせんかすめた。

傷口からその首筋が瞬く間に毒々しい紫色に染まる。


 レディの顔色がみるみる青白くなり、額からは冷や汗がどっと吹き出した。


「なにげにかなり久々の命中じゃねぇかぁ? ケケケケケ」


 ソードアーツの毒におかされたレディの首筋を見て笑うアムドゥス。


 レディはディアスを睨んだ。

いでディアスに背を向けると逃走する。


 ディアスはそのあとを追おうと踏み出した。


 レディは肩越しにディアスを見るとハサミを投げ放って。


風切り音を上げなら高速で旋回する刃。

回転しながら迫る巨大なハサミをディアスは剣で弾く。


 その間にもレディはディアスから数歩分の距離を稼いでいた。


「アムドゥス、剣の回収頼んだ」


 ディアスはアムドゥスに言うと、レディを追って駆け出す。


 レディは時折肩越しにディアスの方を振り返りなら、一心不乱に街を駆け抜けていく。

だがその身体が見えない何かに──隠蔽いんぺいの衣をまとったフェリシアにぶつかった。


「わわわ」


 フェリシアは尻餅をつくと、隠蔽いんぺいの衣から顔と脚が出てしまった。

慌てて再び全身を衣でくるみ、その姿を隠す。


 その前をディアスが走り抜けていった。

少し遅れてアムドゥスがディアスの剣をぶら下げながら横切る。


 フェリシアは去っていくディアスとアムドゥスの後ろ姿を見送った。

いで立ち上がると城を見上げ、再び城へと向かって小走りで進んでいく。


 周囲からはまばらに悲鳴が響き渡り、剣戟けんげきの音と断末魔とが時折フェリシアの耳を刺して。

それらが聞こえる度にフェリシアはその顔を不安と恐怖に歪めた。

だがすぐに顔を引き締め、誰が見ているわけでもないのに毅然きぜんと振る舞う。


 フェリシアは城門へと続く橋の前にたどり着いた。

橋の入口には衛兵が布陣を組み、襲撃に備えている。


「よりよってこのタイミングとは」


「兵の少ない時を狙われたんだ」


「追跡部隊は戻ってこないのか」


「今からでもギルドに救援を」


「間に合うわけがない」


「今からでも住民の保護をすべきでは」


「持ち場を離れるわけにはいかん。城は絶対死守しなければ」


 どよめく衛兵達。


 そしてその周囲には逃げてきた住民達が集まってきていて。


「頼む、中に入れてくれ」


「せめて娘だけでも」


「お願いします!」


 必死に中に入れてほしいと懇願こんがんする住民達。


 そしてその中の1人がずんずんと前へと進んで。


「ここを通せ!」


 住民の1人が強引に橋を通ろうとするが、衛兵がその身体を押し戻す。


「申し訳ないがここは通せない。安全な場所に避難を」


「俺達を見捨てんのか!」


 押し戻された住民が怒鳴った。


「街と住民の安全を守るのが衛兵の役目だろ」


「他の衛兵は何をやってるんだ」


「国王陛下と王子殿下に取り次ぎを」


「まさか国は俺達を見捨てるのか?!」


 次第に怒号が飛び交い、衛兵達は罵詈雑言ばりぞうごんさらされる。


「…………なんとかしないと」


 フェリシアは困ったようにきょろきょろと視線をさ迷わせて。


「でもここで姿をさらせば、お兄さまにわたしの動きがバレてしまう。でも民をこのままにはできない」


 フェリシアは深く息を吸って。

いで大きく息を吐いて。

そしてまた深く息を吸って、吐いて。


 フェリシアは深呼吸を繰り返すと、隠蔽いんぺいの衣を取り去った。

大きく息を吸い、周囲の怒号にき消されないよう声を張り上げて。


しずまりなさい!!」


 フェリシアの周囲の人々がフェリシアを見た。


「鎮まるのです!!」


 さらにフェリシアが声を張り上げて。


「わたしはフェリシア=レム・レクシオン王女! 王家に連なる者として命じます。門を解放しなさい! 助けを求める民を見捨へ、へ────ああ、噛んじゃった!」


 フェリシアは悔しそうに唸ると咳払いして続ける。


「民草あっての国です! とにかくその門扉もんぴを解放なさい!」


「フェリシア王女?!」


「なぜ王女が外に!?」


 衛兵は驚きの声を漏らして。

だが衛兵の1人は静かにうなずいた。

門の方へと振り返って。


「開門!」


 衛兵が叫んだ。


「王女殿下のめいだ。道を開けろ! 住民の避難を受け入れる!」

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