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4-17

「何が起きてる?」


 レオンハルトは周囲を見回した。

真っ黒な空に向かって放たれる火矢の明かりをかろうじて捉える。


 レオンハルトは再びレディの方へと振り向いて。


 だが、その背後から地を蹴る音。

いで風切りの音がレオンハルトに迫る。


 レオンハルトは尾を大剣の柄に絡ませて。

振り向き様に尾を操って剣を振るった。


 その剣をくぐる銀の一閃。

レオンハルトはすれ違い様に脇腹を深々と斬り裂かれる。


「ふふふ、油断なさいましたわね」


 ザン、と得物を真下へと突き立てて。

レディは突き立てたハサミに寄りかかりながら言った。


 レディの声のする方へと顔を向けたレオンハルト。

だがその目は光をほとんど失い、僅かにレディの瞳に灯る赤の光を点のように捉えるのが精一杯だった。


「くそ、もう動けるのか。再生だとしたら尋常じゃない速さだな」


 レオンハルトが言った。


 その言葉を聞いてレディは首をかしげて。


「……あら。あらあらあら。貴方、目が見えてませんのね」


 レディは意地悪く笑って。


「そうですか。それは愉快ですわ。…………でも同時に残念ですわね」


 レディは足でその足元をパッパッと払った。

いで突き立てたハサミを引き抜くとそれを構える。


「目が見えないのでしたら相手にはなりませんわ。さらには左腕も失ってるようですし」


 レディはレオンハルトに向かって1歩踏み出して。


「王子様とのたわむれもここでおしまいといたしましょうか」


「ここでおしまい? オレはまだ……戦えるのにか?」


 レオンハルトは右腕を人のものへと戻すと、大剣を手に取って言った。


「その身体でよく言えますわね。でもごめんなさい。わたくしも色々と予定がありますの。少なくとも今の貴方には時間をく価値を見いだせなくてよ」 


 レディは冷めた目でレオンハルトを見る。


 レオンハルトは尾を伸ばした。

石レンガの上を探り、斬り飛ばされた左腕を見つけるとそれを持ち上げて。


「ソードアーツ────」


 レオンハルトの剣の魔力を解放。

それと同時に切断された腕を傷口に押し当てて。


「『再生の剣、(リジェネレイト)切り開く活路(・エンハンサー)』」


 レオンハルトの握る大剣の刃から緑色の光が円形に拡がった。

そして光の粒がレオンハルトの目を覆って。

左腕の切断面を包んで。

そして脇腹に受けた傷へと注ぎ込まれる。


 レオンハルトは大剣を払った。

周囲に漂っていた緑の光の粒が拡散する。


 レオンハルトは左腕を。

そして自身の脇腹へと視線を向けた。

左手のあしゆびを開いて握ってを繰り返し、その手で脇腹をさすって。

左腕と脇腹の傷の再生と、それを視認できている目の回復を確認すると大剣の刃を撫でる。


「…………眠れ、眠れ。深い虚無きょむ微睡まどろみの中へと還れ。まだ、目覚めの時ではない」


 レオンハルトは大剣に語りかけた。


 いで光を取り戻したレオンハルトの青の瞳は眼光鋭く。

対峙するレディへと視線を向ける。


「…………お互いに仕切り直し、といったところかしらね」


 レディが言うとレオンハルトは首をひねって。


「いいや」


 レオンハルトは大剣を左手に持ち変えた。

右腕をレディへと伸ばして。

右腕がうごめき、その形を変える。


 それは真っ赤に赤熱する鱗に覆われていた。

大きく横に裂けた巨大な口。

ずらりと並ぶ赤黒い牙は内部から光が漏れ、毒腺から送り出される真っ黒な毒が滴り落ちて。

滴り落ちた毒が石レンガへと触れる度に赤紫色の煙が上がる。


 レオンハルトの右腕の先に現れた竜の首。

その竜の目のあるべき位置には白い大きな鱗が数枚張り付き、暗闇の中で不気味にチカチカとまたたいている。


 レオンハルトはレディに向けて言う。


「ここからが、本番だ」







「潜入成功です」


 フェリシアがディアスに言った。


 ディアスとアムドゥスはフェリシアを伴い、再び城郭じょうかく都市の中へと入っていた。


「ケケケケケ! 見張りがいなけりゃ楽勝だろうよ」


 頭上からアムドゥスの声。


 アムドゥスは低空を旋回して周囲の状況を確認する。


「ケケ、かなり混乱してるようだな」


 アムドゥスはそう言いながらディアスの肩へと降りた。


「かなりの数の兵が城壁外へと進軍していった。その隙を突かれたのか」


 ディアスが言った。

ディアスは目深まぶかに被ったフードの陰から周囲を見回す。


「助けて!」


 どこからともなく悲鳴が聞こえた。


「……フェリシアは手筈てはず通りに頼む。俺が行く」


 フェリシアは少し迷ったが、うなずいて。


「はい。お願いします」


 フェリシアは隠蔽いんぺいの衣に身をくるむとその姿を消した。

足音が遠ざかる。


 ディアスは悲鳴の聞こえた方へと駆け出した。


 今も断続的に響く悲痛な声。


 ディアスはすぐに悲鳴の主を見つけた。

恐怖におびえる少女が悲鳴を上げ続け、それをかばうように父親が覆いかぶさる。


 だが凶刃が親子もろともその身体を両断。

少女は恐怖に顔を歪めながら。

父親は少女を必死に抱き抱えたまま。

その命は紙切れのように断ち切られた。


 ディアスは背中の剣を2本抜いた。


 赤い光を宿す瞳がディアスの姿を見つけて。


「貴方……先ほどもお会いしましたわね」


 巨大なハサミを得物にたずさえる女──レディはにこりと笑みを返した。

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