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4-12

「レオンハルト様!」


「おい、早く救護を!」


「ご無事ですか?! レオンハルト様」


 衛兵はレオンハルトに駆け寄った。


「オレは大丈夫だ。それより被害は」


 レオンハルトが目を押さえながらいた。


「交戦によって橋に大きな損傷を受けていますが、兵への被害は軽微です」


「そうか」


 レオンハルトは小さく答えるとよろよろと立ち上がった。

衛兵がレオンハルトを支える。


 その時、閉ざされていた城門が再び動き出した。

轟音を上げながら扉が左右に開いて。

その先には重武装した兵士の隊列が並び、その先頭にはきらびやかな鎧を身にまとった男が立っている。


「敬礼!」


 先頭に立つ男を見て周囲の衛兵達は整列し、胸に拳を当てた。


 先頭に立っていた男は悠然と前へ進み出ると、衛兵に支えられたレオンハルトを見た。

血を流す両目と異形の左腕、背中から伸びる尾を一瞥いちべつして。


「これ以上無様な姿を衆目しゅうもくに晒すなよ、レオンハルト」


「……兄貴」


 レオンハルトが呟いた。


「気安く呼ぶな。我が一族の名をおとしめる無能。挙げ句醜悪(しゅうあく)な力に手を染めたお前に兄などと呼ばれるいわれは無い」


「……失礼致しました。第1王子殿下」


 第1王子と呼ばれた男は小さくうなずいた。


 レオンハルトは異形化した左腕を人のものへと戻し、その尾を消す。


 第1王子は側にいる衛兵の1人に視線を向けて。


「逃げた魔人は」


「ハッ! 魔人は従えていた魔物と共に城壁の外へと逃亡したものと思われます!」


 衛兵が答えると第1王子は衛兵とレオンハルトに背を向けた。

城へと歩みを進めると、そこに待つ重武装の兵士の1人が第1王子の前へと進み出る。


 第1王子は兵士へといくつか指示を飛ばして。

兵士は敬礼すると隊列へと戻り、受けた指示を伝達。

兵士達は慌ただしく動き始める。


 レオンハルトは第1王子と重武装の兵士達の方向を見つめていた。


「……レオンハルト様、救護班の方で応急措置を行いますのでこちらへ。私達ではその身体の治療は難しいので、その後はあの、かかりつけの医者のもとへ向かいましょう」


 レオンハルトは衛兵の言葉に首を左右に振って。


「伝達が遅れているのか……。ドクターの診療所が魔人の襲撃を受けて、ドクターの行方が知れない」


「では治療の方は」


「オレは大丈夫だ。それより城壁内の警戒と捜索を今1度強化したい。城壁の外へと逃走した魔人は大きな脅威だが、今はあの女の魔人の討伐が先だ」


「その必要はありません」


 重武装の兵士がレオンハルトの方へと足早に近づいて。


「殿下からの指示でこれより城壁外へと逃走した魔人の追跡を行う大規模な追跡部隊を編成致します。城壁内には最低限の見張りと城の防備に兵をてますので、そちらに兵を割くゆとりはないのです」


「国外へと逃亡した魔人よりも今は国内に潜む魔人の対処を優先すべきだ。あの魔人は得体が知れない。現に民にも被害は拡がっている」


 レオンハルトが言った。


「ですが殿下の命令ですので」


 兵士が言うとレオンハルトは第1王子の方へと視線を向けた。

次いでその方向へと歩いていく。


「レオンハルト様」


 衛兵はレオンハルトを支えて一緒に歩いていった。


「第1王子殿下!」


 レオンハルトは第1王子へと声をかけた。


「お止まりください」


 重武装の兵士2人がたずさえた槍を交差させてレオンハルトの行く手を遮る。


「…………レオンハルト、なにか用か?」


 第1王子はレオンハルトに背を向けたままたずねた。


「国外へと逃亡した魔人よりも今は国内に潜伏している魔人の対処を火急に行うべきです。あの魔人はその後にオレが対処する。これ以上あの魔人によって国に被害は出させない事を誓います」


「これは第1王子たる俺の決定だ。それに異を唱えるのか」


「民が犠牲になっている。それを野放しになんてできない。優先すべきは民のはずだ」


 第1王子は肩をすくめるとため息を漏らした。

いでレオンハルトへと振り返って。


「時に優先すべきは民草よりも国益だ。国あってこその民。国が瓦解すればそこに住まう民は行き場を失う」


「あの魔人を追う事が国に何をもたらすって言うんだ」


「俺が知らないとでも?」


 第1王子は片方の口角を吊り上げて続ける。


「あの魔人、ただの魔人ではあるまい? あの魔人の捕縛は我が国にとって有利なカードとなる。数年、国を離れていたお前も知っていよう。我が国の現状を。今や我が国はなりふり構ってはいられないのだよ。たとえ、どんな手を使おうともな────」


 第1王子の瞳が鋭さを増した。


王子はレオンハルトへと歩み寄った。

兵士が槍を下げると、王子はレオンハルトの耳許みみもとで言う。


「魔物の力を使ってでも力を手にする。その在り方は父上も……そして俺も認めている。だからこそお前を呼び戻した。それを表立って褒め称えるわけにはいかないがな。だが、そういう忌むべきものの力を使うのなら気付かれぬようにやるものだよ」


 レオンハルトは第1王子の顔を横目見た。

その顔は不敵に笑っている。


「────城の、中にいる?」


 レオンハルトはディアスの言葉を思い出して呟いた。

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