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4-10

 ディアスはその閃光を受けると身体が硬直。

身動きが取れなくなって。


 その隙をつき、レオンハルトはディアスへと斬りかかる。


 ディアスは身動みじろぎできないまま、刃を展開して。

足先から地を這うように刃が伸びると、その側面から幅広の刃がそそり立った。

その刃がレオンハルトの剣とぶつかる。


 さらに地を這うように伸びた刃はレオンハルトの下へと潜り込むと、細い切っ先を無数に突き出した。


 レオンハルトは上に跳ぶと無数の切っ先の上へと尾を叩きつけて。

硬質な黒い鱗に覆われた尾は容易くディアスの展開した刃を砕く。


 レオンハルトは叩きつけた尾を跳ね上げた。

鞭のようにしなった尾がディアスの身体を打ち付け、後方へと吹き飛ばす。


 そこに弩弓どきゅうから放たれる炎をまとった矢。

ディアス目掛けて左右からいくつもの火矢が迫る。


 ディアスは身体の自由を取り戻した。

すかさず空中で剣を橋へと突き立てて。

剣を握る手に力を込め、柄を軸に身体を持ち上げる。

回る天地。

ひるがえる白のマント。

そしてディアスの眼前や腕をかすめる無数の矢。

通りすぎる火矢の炎がディアスの顔を舐める。


 ディアスは勢いのままに剣を引き抜き後方へと飛んだ。

着地と同時に顔を上げると、すぐ先にはレオンハルトが迫っていて。


 ディアスは刃の砕け散った剣を腰のベルトに留めた。

いで背中の剣を抜く。


 ディアスはレオンハルト目掛けて剣を振り下ろした。

その剣を異形の左手で掴んで受け止めるレオンハルト。

さらにディアスがもう一方の剣を振るうとレオンハルトが大剣で受け止める。


 2人は鍔迫つばぜり合いになった。

剣と剣の刃がガチガチと音を立てる。


 ディアスを睨むレオンハルト。

だがその目からは血が涙のように流れ落ち、その瞳は焦点が定まっていない。

 

「ケケケ、人間の身体で使うには無茶のある力だ。そいつ、もう目がほとんど見えてねぇぜぇ?」


 アムドゥスの声を聞き取って。

レオンハルトはディアスのフードの陰へと視線を移す。


「そこに潜んでるのは魔物か? ハハッ、勇者のお供が魔物とはな」


「……羨ましいか?」


「まさか」


 レオンハルトはディアスへと視線を戻すと嘲笑あざわらうような笑みを浮かべた。

だがすぐにその顔からは笑みが消えて。


「お前、あの女の魔人とは仲間か?」


 ディアスはレオンハルトの問いに小さく首を左右に振る。


「さっき遭遇して後を追ったが逃げられた。戻ったらそこで治療していた少年と、そこに残して来た少女が消えていた」


「ああ、あの女を追ってたっていう白いフードの冒険者はお前か」


 レオンハルトが納得したように呟いた。


「その少女がその城の中にいる」


「ありえねぇ、な!」


 レオンハルトはディアスの剣を押し返すと体をよじった。

その背から伸びる黒い尾を横に薙ぐ。


 ディアスは両手の剣で尾を受け止めたが、その衝撃に後ろへと飛ばされて。

ディアスは徐々に遠ざかっていく城門を忌々しく見上げる。


「ここは警備が厳重だ。魔人が入れるとは思えない。かといって保護を求めた人間を迎え入れる許可を出すようなお優しい人間もいない」


 レオンハルトは黒い尾をしならせ、大剣を構えながらディアスに歩み寄って。


「お前が何か勘違いしてるのか、あるいは意図的に嘘をついて何か目論見があるのか?」


 ディアスはレオンハルトへと視線を戻す。


「逆にきたい。あの魔人をお前は知ってるのか」


「オレも詳しくは分からない。少し前にこの国に現れた魔人だ。だがオレが3度喰い殺し、さっき魔結晶アニマえぐり出してなお奴は死んでない。ドクターの所に戻ったら、オレが出たときにはなかったあの女の得物が突き刺さってたからな」


 レオンハルトは肩をすくめて。


「それで1度城に戻ろうと思ったら城門前が騒がしくて、また魔人の女が出たかと思ったらお前がいた」


「……俺は人喰いをしない魔人だ。少年と少女さえ見つかれば俺はここを出る。なんなら魔人の女の討伐に手を貸してもいい。ここは見逃してもらえないか。俺は一刻も早く2人の安否を確認したいんだ」


「悪いがそれはできないな。お前が人喰いをしてるしてないとかは関係ない。元勇者のお前を除く5勇者にギルドから生死を問わない捕縛指令が出た。オレがここで見逃しても、お前は他の勇者にやられる」


 ディアスは驚きに目を見開いて。

いで自嘲気味に笑う。


「ククッ。5勇者ときたか」


「他の奴にとられるくらいなら、今ここでオレがお前を喰う」


「そんなに俺の事を好意的に思ってくれてたのか?」


 ディアスが鼻で笑った。


「いいや。元勇者の魔人堕ちの肉だ。お前の肉を食えば身体の馴染みもよく成りそうだと思っただけだ」


 レオンハルトは無表情でディアスへとさらに迫る。

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