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4-9

 ディアスは爆風にあおられた。

後ろに吹き飛ばされないよう、ディアスは両手に握る剣の切っ先を橋に突き立てて。

下肢が宙に浮くが、ディアスはなんとかこらえると地面を蹴る。


 ディアスは爆炎がまだ消えやらぬ中へと飛び込んだ。

炎の中を走り抜け、城門へと迫る。


「第2射、ぇ……!」


 衛兵の号令と共に。

再び人の頭ほどもある大きな凶弾がディアスに放たれた。

炎と共に射出された砲弾は瞬く間にディアスに迫る。


「顕現しろ────」


 ディアスの目に灯る赤が激しく燃え上がって。


 その赤い光を捉えると、弩弓どきゅうを操る衛兵達は次々に矢を放った。

その矢は先ほどまでの火矢ではなく、切っ先が白く尖った針状の矢。

その矢はディアス本人ではなく、その周辺へと突き刺さる。


 周囲に深々と突き刺さった矢を横目見たディアス。

ディアスはその口許くちもとに嘲笑を浮かべて。


「俺の『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』!」


 その身体から無数の刃が連なり、迫り来る砲弾全てを斬り伏せた。

1拍の間を空けて両断された砲弾が炸裂。

爆風を受けて城門と城壁が大きく揺れる。


「魔宮封じのくさびを打ったんだぞ!?」


 衛兵の1人がディアスの展開した刃を見て驚嘆の声を漏らした。


「展開域0のブラザーには意味がなかったなぁ! ケケケケケ!」


 アムドゥスが笑う。


 ディアスは爆炎を無数の刃で払うと城門へと飛び付いた。

足裏に形成した刃が扉を捉えて。

ディアスは垂直の扉を駆け上がっていく。


「城内に入れるな!」


「撃ち落とせ!」


「守りを固めろ!」


「応援はまだか!?」


 衛兵達の怒号が響いていた。


 ディアスは背後から飛んでくる弩弓どきゅうの矢をかわし、城壁の上から放たれる弓矢を斬り伏せて進む。


────その時、ディアスの背後で黒い尾が強く地面を叩いて。

城門へと続く橋に走る大きな亀裂。

その衝撃をバネにして、ディアスの頭上へと飛び上がった。

黒いコートをひるがえし、右手に握った無骨な大剣をディアス目掛けて振り下ろす。


 ディアスは両手に持った剣で受け止めて。


 響き渡る金属のぶつかる甲高い音。


 だが異形化した左腕で大剣の峰に力を込めると、その膂力りょりょくにディアスは押し負けた。


 激しい勢いで落下するディアス。


 その後を追い、大剣の切っ先を向けて急降下した。

黒い鱗に覆われた尾がたなびき、黒い彗星のような様相を見せて。

【黒の勇者】レオンハルトは、ディアスへと肉薄する。


「ソードアーツ『刹那の閃き、(ライジング)天を衝かんと(・ブレイド)』…………!」


 ディアスは着地と同時に剣の魔力を解放。

レオンハルトの剣を迎え撃つ。


「そんな折れた剣で止まるかよっ!」


 レオンハルトの青い瞳とディアスの赤い瞳とが視線を交えて。

いでレオンハルトの剣とディアスのソードアーツとが正面から衝突。

ディアスの振るった剣はついに刃全てが粉々に砕け散った。

ディアスの肩から下肢にかけてをレオンハルトの剣が深々とえぐる。


 苦悶くもんの声を漏らすディアス。


 レオンハルトの剣は橋を形成していた石レンガを大きくまくりあげて突き刺さった。


 後ろに下がるディアスを追い、レオンハルトは力任せに剣を振るって。

剣身の大半が橋に埋もれたまま。

レオンハルトの大剣は石レンガを砕きながらディアスに迫る。


 ディアスは無数の刃を形成した。

白のマントがひるがえり、その陰からいくつもの剣の切っ先が伸びてレオンハルトの剣を受け止める。


 ディアスの生み出した膨大な刃に飲まれ、レオンハルトの剣は勢いを完全に失った。

レオンハルトは力ずくで剣を振ろうとするが、その剣身に食い付いたディアスの刀剣の歯牙しがはそれを離さない。


「ディアス、気ぃつけろ! こいつの身体、普通じゃないぜぇ? ケケケケケ!」


 アムドゥスの額の瞳に7色の幾何学(きかがく)模様が走って。


「『創始者の匣庭(ディザイン・ヴェルト)』による観測結果だが、両目はレベル36のバジリスク、左腕はレベル47の黒龍、背中の尾も黒龍のもんでレベルは50、そして右腕はレベル80の竜種のもんだ! 他にも身体の至るところが魔物のもんに置換されてやがる!」


 ディアスはレオンハルトの出で立ちを。

そしてコートの襟元に留められたギルドバッジを見て言う。


「お前、黒の勇者か」


「ああ。会うのは初めてだな、白の勇者……!」


 レオンハルトは尾を操り、ディアスに向けてその鋭い切っ先を突き出した。


 ディアスは展開していた剣を消すと後ろに跳んだ。

迫り来る尾を両手に握る剣の刃と柄でいなす。


 そこに飛来する無数の弩弓どきゅうの矢。


 ディアスはそれらを展開した刃で阻むとレオンハルトに視線を向けて。


「他の恵まれた勇者達と違って、お前には好感を持っていた。こんな形の出会いになったのは残念だ」


「奇遇だな。俺も同意見だ。……だからこそ、なんで魔人に堕ちた!」


 レオンハルトは剣を振りかぶりながらディアスへと駆け出した。

同時にその眼が激しい熱と痛みを帯び、瞳から青と灰色の閃光が放たれる。

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