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お前は、ヒロインではなくビッチです!  作者: もっけさん
幼少期
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お茶をする前に撮影です

 写真映えするケーキと使われている食器に私はうっとりと感嘆を漏らす。

「相変わらず、ここの茶器のセンスは良いですね」

「ありがとう御座います。ユーリウス商会が扱っている輸入雑貨で見つけました。特別な時に使わせて頂いております」

 この店主、特別感をアピールするのが上手いな。

「美味そうだな」

「このスプーンの彫り物も凄いが、持ち手に埋め込まれた宝石が美しい。僕の家も輸入を主にしているが、ここまでの品はお目にかかったことが無い」

 ルークは、頻りにスプーンを眺めている。

「もう食って良いか?」

 ロンギヌスは、ケーキに手を付けようとしている。

 私は、慌ててそれを止めた。

「ケーキを食べる前に撮影ですわ」

 パチンと指を鳴らすと、鳴りを潜めていた護衛達がチェキもどきを手にケーキやお茶を写真に写している。

「店主、こちらに立って頂けますか?」

「こうですかな?」

 ケーキとお茶菓子の方向に手を差し伸べるポーズを取る彼を、護衛達が色んな角度でシャッターを切っている。

 取った写真を店主と一緒に吟味して一枚選ぶ。

「こちらは、後日商会のカタログに掲載させて頂きますわね。カタログの見本が出来たら、家人がお届けに上がりますわ」

「ご丁寧にありがとう御座います。では、リリアン様とご友人の皆様。ごゆっくりなさって下さい」

 店主は、そういうと部屋を後にした。

「店主もいなくなったし食べても良いだろう?」

とロンギヌスが急かすので、私は大きな溜息を吐いた。

「まだダメですわよ。こちらの茶器や皿、ケーキを撮り終えてません。それに、皆様にも食べる仕草をしている写真を収める必要がありますのよ。食べるのは、全部終わってからですわ」

 そう言うと、あからさまに不機嫌になった。

「リリアン、通信具の話を詰めるのではなかったのか?」

「それもやりますわよ。その前に、一仕事片付けてからですわ」

 アルベルトの言葉を一掃し、男の娘達に様々なポーズを取らせる。

 それも思う存分撮らせて頂きました。

 百枚近く取って、漸くケーキとお茶にありつけたのは店に入って二時間が経過した頃だった。

「スゲェ疲れた」

「ロンギヌスに同感だ。お茶をするだけに、こんなに時間を取られるなんて思いませんでしたよ」

「言うな、スピネル。もう、二度とごめんだ」

「カルセドニーもスピネルも、もっと柔軟に見ないと。僕は、貴重な勉強になったと思います」

「ルークの言う通り、あの程度で音を上げていたらモデルなんぞ務まらんぞ。リリアンとモデル契約した以上は、美容や体型にも気を使う必要があるからな。必要な物は、後で書面で渡してくれるだろうから用意しろ」

 流石、アルベルト分かってる。

 モデルを始めてから、美や体型を気にするようになったのは知っていたけど、ここまで気を使ってくれていたとは思わなかった。

 少しだけ見直したぞ。

 本当に少しだけだけどな!

「誓約書に書かれている通り、契約不履行になった場合は損害賠償が発生します。頑張って美容と体型を維持して下さいませ。必要な物は、当商会で揃えられますわ。ご自身で別の商会から取り寄せしてお使い頂いても構いませんよ」

 そう言うと、アルベルト以外の顔が曇った。

 だまし討ちのように女装を指せ、女性モデルとして起用し契約解除しようにも損害賠償が発生するという鬼畜仕様。

 肝心な部分を神言しんごんで書いたのだから、限りなく詐欺に近いだろうが立件は出来まい。

 きちんとモデル料も支払われているのだから。

「さて話は変わりますが、ボタン一つの通信具のデザインについてですわ。わたくしが、いま持ち歩いているのはこれですわ」

 私のデザインを無視して作られた厳つくてゴツイ携帯を見せると、男どもの目がキラキラと輝いている。

「本当にボタンがいっぱいついているな」

「デザインもナリスで見た魔鉄道を彷彿させますね」

「ルーク様は、魔鉄道がお好きなのですか?」

「はい。シュッとしていてシンプルなデザインが好きです」

「ボタンが少なければ、もっと小型化できるのではないか?」

 カルセドニーが、携帯を手で持ちあげながら弄り回している。

「殿下主催のパーティーで配られたカードと同じくらいの大きさの物が便利だと思います」

 ルークの指摘にカエサルも頷いている。

「俺は、騎士の紋章とか入っているのが良い」

 ロンギヌスの言葉に、私はハッと閃いた。

「それですわ! 少しお待ち下さいませ」

 ショルダーバッグからメモ帳と万年筆を取り出してラフ画を描いていく。

 表は、相手の名前と家紋を描き中央にボタンが配置されるように描く。

 裏は、自分の家の家紋を描いて見せた。

「家紋は複雑な物を用いている家が多いですので、デフォルメ化されたものを使えば良いでしょう。どうしても精巧な物を望む場合は、別途料金を取る形に致しますわ。デフォルメされた物で良ければ、わたくしからプレゼント致しますわ」

 そう告げると、ルーク以外は喜んでいる。

「……その見返りは何ですか?」

 流石、商人上がりの貴族は違う。

 ちゃんとこちらが求める対価を読んでくる。

「使い心地を教えて頂ければ結構です」

「え? そんなことで良いんですか?」

「はい。あくまで試作品という形になりますので、デザイン性や機能性を実際に使ってみないと分からないでしょう? なので使用した感想を教えて頂きたいのです。宜しいでしょうか?」

「それなら。受け取ります」

 ルーク陥落。チョロイな。

 損して得取れ作戦第一段階は、無事成功で終わった。

 街を散策する場面も護衛達が良い仕事をしてくれたお陰で自然な笑顔を写真に収めることが出来て万々歳だ。

 次号のカタログは、私達女子世代に一大ブームを巻き起こすこととなった。

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