タイプライターの次は通信機
ノームにタイプライター零式を作って貰い、ウンディーネに協力して貰い乾きにくいインクを作成した。
それを持って特許取得申請したら、直ぐに通ったよ!
零式は、お抱えの魔法具工房で分解されてしまったけど量産出来るとお墨付きを貰ったので取り合えず百台依頼した。
インクは、こちらもお抱えのインク工房に依頼して作って貰った。
勿論、特許出願済みである。
インセンティブが入ると思うとウハウハだ。
工房の帰りに、冒険者ギルドが目についたので中に入ってみることにした。
単なる好奇心もあったのだが、魔石が欲しかったのもある。
入った瞬間、物凄く視線を感じた。
紫の神官服を着た童女と護衛数名が、冒険者ギルドに入るなんて普通はないだろう。
受付嬢も私が位の高い神官だと衣で判断したのか、震えた声で聴いてくる。
「あの…どのようなご用件でしょうか?」
「急に押しかけてしまってごめんなさい。魔石が欲しいのだけれど、ここで買えると伺ったものだから来たの」
「魔石ですね。こちらへどうぞ」
如何にもベテランさんな雰囲気の女性が現れて、私と護衛一行を別室へ案内した。
「どうぞ、こちらでお待ち下さい」
部屋の隅に置かれた水晶のような玉に手を当てて何やら話している。
数分後に、厳ついおっさんが現れた。
「ユーフェリアの上級神官が、魔石の買い付けにくるとは晴天の霹靂か」
第一声にそう言われて、私はポカーンとアホ面を晒してしまった。
こんな姿をバーバリー伯爵夫人に見られたら扇子が飛んでくる。
「ユーフェリア教会の現聖女リリアンと申します。教会も以前とは体制が異なりますので、時々こうして必要な素材を買い付けに来ることがあると思いますが、どうぞよろしくお願いしますわ」
裾を軽く摘みカエルスクワットで挨拶をすると、
「嬢ちゃんが、例の聖女様か」
含みのある言い方に、私は聴きたくはないが一応確認も込めて聞いてみた。
「例のとは、どのような内容でしょうか?」
「着任早々に法王を交代させ、鑑定だけでなく回復魔法も手の届く範囲で受けられるように改革した敏腕聖女様」
強ち間違ってはいないが、どう突っ込んで良いのか分からない返答に言葉が続かない。
「魔石が欲しいってことだが、何に使うんだい?」
「こんな格好をしていますが、わたくし商会も営んでおりますの。そちらで新製品の開発に魔石が必要なのです。ポケットマネーで払うので、そこはご安心下さいませ」
お布施に手を付けないよ~とアピールしてみたが、胡乱気な目で見られている。
うん、その気持ち分からなくもないけどね。
「聖女様が手がけている商会の名前を聞いても?」
「構いませんわ。隠しておりませんもの。ヘリオト商会ですわ」
そう答えると、ギルドマスターは吃驚した顔で私をマジマジと見ている。
「これは失礼しました。私は、レイサック・オルビスと申します。イーサント王都支部のギルドマスターをしています。以後お見知りおきを」
「素晴らしい手のひら返しですね。嫌いじゃないですけど」
「ヘリオト商会で売りに出されている商品は、冒険者の間でも有名ですからね。特に携帯食や紙は重宝しています。魔石を使って、新しい事業でもされるのですか?」
興味津々のレイサックに、私は笑みを浮かべるだけに留めた。
だって言う必要ない上に、教えて仕舞えばどこで情報が洩れてしまうか分からない。
そんなリスキーなことはしたくはない。
「火・水・風の魔石が欲しいですわ。質は一番最低なものから最高なものまでお願いします。最低ランクの魔石は、沢山あると嬉しいです」
「分かりました。用意します」
また、水晶のような玉を使って何やら会話をしている。
会話を終えたレイサックに、私は疑問をぶつけてみた。
「オルビス殿、その玉は通信機か何かですか?」
「これですか? 冒険者ギルド内であれば連絡が取れるように作られた魔法具です。元々は、長距離通信用の古代魔法具を作ろうとして作れなかった劣化版ですね」
何と、ここに携帯に近い存在の物があるとは!!
「手に取って見ても宜しいですか?」
「ええ。構いません」
食い気味に身を乗り出して聞くと、オルビスは若干引き気味ではあったものの快く許可してくれた。
早速、玉を手に取り構造を調べると、風の精霊が閉じ込められている。
念話で何でこんなところにいるのか聞いてみると、昔人間に閉じ込められたという答えが返ってきた。
何てことしてんだよとツッコミを入れそうになったが、閉じ込められた当人は魔力にも困らないし基本的にグータラ出来る理想の環境なので不満はないそうだ。
そうこうしている内に、受付のお姉さんが大量の魔石を運んできた。
「ギルドが保有している魔石を全て貴女に売ることは出来ないが、ここにあるものであれば全部買い取って頂くことは可能だ」
クズ魔石多めと言ったが、良質な魔石が異様に少ない。
まあ、実験する分には困らないが今後実験が成功した時は良質な魔石が多く必要になる。
「取り合えず、ここにあるものは全て買いますわ。商品が完成した時、良質な魔石が必要になると思います。その時は、融通して頂けますか?」
「その時都合が付けば、融通はしましょう」
なかなか色よい返事は無かったが、多少の融通はしてくれるようなので良しとしよう。
「代金は如何ほどで?」
「全て合わせて金貨三枚です」
パッと見て、金貨三枚はボッタクリも良いところだ。
「殆どがクズ石で、お金が取れるとすれば、こちらとこちらの魔石くらいですわ。質も中の下と上の下と言ったところでしょうか。金貨一枚と大銀貨五枚が妥当ですわ」
「魔石は需要があるので、そこまで安く売れませんよ」
「なら、他のところで買うしかないわね。取引は無かったことにしましょう」
私は席を立ち、ごきげんようと挨拶をして出ようとすると引き留められた。
「金貨二枚でどうでしょうか?」
「それだけの価値に見合ってないものを買う気はないと申し上げております。わたくし、聖女である前に商人でもありますのよ」
私相手にふっかけようなんて百年早いわ。
転生してから出直してこい、と心の中で毒吐いた。
「……分かりました。金貨一枚、大銀貨五枚で良いです」
「商談成立ですわね。ありがとう御座います。そうそう、こちら試作品なのですが宜しければお使いになって。次回来た時に、使い心地を教えて頂けるかしら?」
代金と万年筆を手渡し、テーブルに広げられた魔石を回収して冒険者ギルドを後にした。
この世界での通信の仕組みも分かったことだし、聖女教育の合間に通信機制作に着手しよう。
通信機が出来たら、アルベルトの報告も手紙ではなくリアルタイムにやり取りできるようになるからメリットが盛りだくさんだ。
「フフフフッ、通信機が出来たら通信事業を立ち上げてガッポリ稼ぐわよ!」
高笑いしながら私は、ユーフェリア教会本部へと帰宅した。




