パーティーが終わった後始末
パーティーが終わって、私にもアルベルトにも学友が出来ました。
私には、キャロル・チャイルドとエマ・レイスの二人だ。
キャロルは保守派の家柄ではあるが、母親がヘリオト商会していることから商会にオーダーメイド出来るだけの力がある私と繋がりを作るのが得策と判断したようだ。
エマ・レイスは、中立派の貴族で彼女は本に興味を示し、リリス著の本を沢山所有しているアルベルトにお近づきになる為に私に近付いてきた。
貴族社会で何の思惑もなく純粋に、『お友達になりましょうね』なんていう馬鹿は居ない。
損得を考えて付き合う人間を選ぶのは、貴族らしい考えである。
パーティーが無事終わり、招待客に対し手紙を書くという作業が残っている。
本当は、一度帰ろうかとも思ったが、朝早くから王城に来てアルベルトにお礼の手紙を書かせるのは面倒臭い。
アルベルトからも泊って行けばと誘われたので、ありがたく乗っかかった。
約束のリラクゼーションエステは、パーティーが終わった夜にやりましたよ。
アルベルトは、最近美を追い求めるようになってきた気がする。
基礎化粧品や洗顔石鹸など拘りが半端ない。
剣術の特訓の時は、日焼けが嫌と言い出したこともあった。
直ぐにグーで殴ったら大人しくなったけど、開いてはいけない扉をこじ開けてしまったのか心配になってきた。
朝食を食べたら、アルベルトの執務室に移動する。
昨日使ったパーティーバッグ一式を持ってだ。
ドアの前に立っている兵士に、取次を頼むと直ぐに通してくれた。
「リリアンか、丁度お礼の手紙を書いていたところだったんだが、今一良い時候の挨拶が浮かばない」
グシャグシャに丸まった紙を開くと、何ともお粗末な内容だった。
「季節の挨拶は、ユーフェリアの経典を絵本にしたものが御座います。そこに沢山書かれておりますわ。今は秋が深まった時期なので、こちらの書き出しが宜しいかと」
『涼やかな秋空の下、お健やかにお過ごしのことと存じます』の台詞の一文を指さすと、アルベルトはそれを書き写している。
「殿下、手紙には基本的な書き方が御座います。今回は、延期になったパーティーに態々参加して頂いたお礼と今後の抱負・これからの挨拶を入れて下さい。追伸で、話題に少し触れておくと宜しいでしょう」
「口では簡単に言うが、文章を考えるのは難しいんだ」
「こればかりは、経験で埋めるしかありません。一度下書きをして、王妃様に目を通して貰いましょう。出して良いと返事があったもののみ出して、やり直しの物は書き直せば宜しいかと。私も知恵を絞りますので、一緒に頑張りましょう」
二人でお礼の手紙の下書きを一日がかりで書き上げ、王妃に出しても問題ないか確認して貰った。
五十人もいるので、結構な人数になっただろう。
ご愁傷様である。
城にいつまでも留まるわけにもいかないので、ダメ出しを喰らった分に関しては、後日書き直そうと話が付き帰路に着いた。
帰宅早々に、私は自室のベッドにダイブした。
「あー、しんどいわぁ」
この数日間は、特に忙しかった。
睡眠時間を削ってまで頑張った甲斐がある。
「愛し子よ、いきなりベッドに飛び乗るのは止めてくれ。本が閉じてしまったではないか」
「ファーセリア、頑張って仕事してきた私に掛ける言葉がそれ? 少しは労わりなさいよ」
ジト目でファーセリアを見ると、
「我は、人間のセセコマシイ習慣や生き方には興味はない」
「その人間が書いた本を読んでいるじゃない」
「暇つぶしに読んでいたら癖になったのだ」
「ウンディーネとノームはどうしたの?」
二人の姿が見えないので聞くと、そこで漸くファーセリアは顔を上げた。
「ノームは、異世界人の魂の魔力変換する実験に駆り出されている。ウンディーネは、最近魔力が急激に集まっている場所があると下級精霊から連絡がきたらしく、風のと一緒に調査に向かって要るぞ」
「前者は良いとして、後者は何だかきな臭いわね」
ユーフェリア教会もトップを挿げ替えて新体制になったが、地位が高かった者ほど過去の栄光に囚われている。
ユーフェリア教会も一枚岩ではないため、聖魔法の使えない聖女に仕えるのは御免だと陰で言っている者が少なからずいるのは知っている。
急激な魔力の集まりが、聖女召喚の為だったら折角の努力が無駄になってしまう。
「もし、聖女召喚をしようとしているのであれば潰すしかないわね」
「そうだな。本当に面倒なことだ」
私の言葉に、ファーセリアも同調している。
折角、補充できるアテが見つかったのに、また消費されては堪ったものではない。
「ファーセリアは、参加しなくて良いの?」
「我は、攻撃特化で探索向きではない。創造神より何もするなと言われている」
その言葉を聞いて、私は納得してしまった。
ユーフェリアの地雷がどこにあるのか読めないから、下手に踏み抜いてしまったら大惨事になりかねない。
「まだ会ったことが無い大精霊は、意外と多いわね。貴方みたいに行き成り現れたりしないか心配だわ」
そして、押し売りのような加護も要らない。
「そのうち顔は見せに来るだろう。何年先かは知らんがな」
精霊の寿命は長い。
何千年と生きている彼らからすれば、一年なんてあっという間の出来事なのだろう。
死ぬ間際に来られても困るので、出来ればなるべく早めに顔合わせしたいとだけ伝えると、ファーセリアは面倒臭そうに頷いた。




