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お前は、ヒロインではなくビッチです!  作者: もっけさん
幼少期
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視察という名の監禁勉強会

 アリーシャとガリオンは、王都にとどまって貰うことにした。

 私といる時は言葉が崩れても気にしないが、アルベルトが傍に居ると四六時中、猫を被り続けることになる。

 流石にそれは可愛そうなのと、王都でやって貰いたいことがあるのでユリア夫妻に付いてきて貰うことにした。

 王都に引っ越す前に馬車の改良をしたいと常々言っていたので、一時的ではあるが里帰りの時に最新の馬車で帰宅出来るのは嬉しい限りである。

 外観は質素だが無駄な装飾が無い分、内装は滅茶苦茶凝りました。

 長時間座っていると尻が痛むのですよ。

 一応、アルベルトと自領の視察という名目があるので、うっかり死なれては困る。

 警護の事も考えた上で、一緒の馬車になったというのにアルベルトはずーっとグチグチ文句を言っている。

「殿下、馬車に乗ってずっと愚痴ばかり仰ってますね。不満があるのであれば、代替え案を提案なさって下さいませ。ないのであれば、静かになさって。わたくし、これでも多忙な身なのですよ」

 殺気立つ精霊達を宥めながら、持ち込んだ書類を目を通すのは心身共に疲れる。

「王族の俺をこんな粗末な馬車に乗せるとは不敬だろう。王家の馬車を使えば、もっと早く着くだろうに」

「ゴテゴテの装飾が施された馬車で移動するなんて、どうぞ命を狙って下さいと仰っているようなものですよ。病床に就かれた陛下が強引に結んだ婚約で、貴方の命は首皮一枚で繋がっていることをお忘れなく。アングロサクソン家が後ろ盾となってなければ、今頃は魔物の餌になっていたかもしれませんわね」

 超高性能な馬車について教える気はないが、アルベルトの今の立場をしっかりと教えておくことは必要だろう。

 イグナーツが病床についた以上、いつでも破棄することは出来るんだぞと脅してみるが、アンポンタンなアルベルトには今一効果がなかった。

「俺は、第一王子だぞ! お前の家に頼らなくても、次期国王は俺だ」

「さようで御座いますか。この国は、世襲制ではあります。しかし、例外もあるのですよ。必ずしも第一王子が王位を継ぐとは限らないのです。前にも申し上げましたが、わたくしにも王位継承権があることをお忘れなく。王位に就けるのは、実力が認められた王族であること。王自身が優秀でなくても、妻になる王妃が優秀であれば条件は満たされます。逆も然りですわ。正直、今のままでは王位に就くことは出来ませんわね。わたくしに負けるようでは、ね」

 薄く笑みを浮かべる私に、アルベルトは顔を真っ赤にしてブルブルと震えている。

「あらあら、そんなに怖いお顔をなさらないで下さいませ。外の景色でも楽しんでは如何ですか? それとも、本でも読みますか?」

 可愛い弟妹達の為に作った絵本を見せると、ギロッと睨まれた。

「……馬鹿にするのも大概にしろ」

「馬鹿になんてしてませんわ。殿下でも分かりやすく覚えやすい教材です。物は試しに読んでみては?」

 ユーフェリアの経典を絵本調で描かれている。

 神々の名前や大精霊の名前、季節のあいさつ文など基本的に覚えなければならない重要なところを挿絵と共に分かりやすく書いてある。

 孤児院だけでなく、娯楽に飢えた貴族社会では結構な人気がある。

 デフォルメされた絵は、子供や女性の間では可愛いと評判だ。

「因みに、こんな物もあります。これは、まだ出回ってない貴重な品ですわ」

 勉強が苦手なガリオンの為に作った教材用の漫画である。

 男の子受けの良い絵のタッチで描かせた貴重な本だ。

 アルベルトに渡したのは、この国の歴史に纏わる漫画だ。

 英雄思考が強いガリオンには、効果覿面だった。

 アルベルトは、本を開くといつの間にか静かに漫画を読み耽っていた。

 これで暫くは持つだろう。

 私は、持ち込んだ仕事を片っ端から片付けていた。



 一週間、漸く我が家に着いた!!

 アルベルトには、漫画を与えておけば大人しくなる事が判明したのは苦痛の代償としては安いものである。

 尊大な態度や傲慢な物言いは変わらず、下級精霊達が「殺っちゃう?」と言いながら本気で殺さないか心穏やかではない旅路だった。

 馬車から降りると、レイモンドと十名のメイドが一列に並んで迎えてくれた。

「リリアン様、お帰りなさいませ。我ら一同、心よりご帰還をお待ち申し上げておりました。アルベルト殿下、いらっしゃいませ。長旅でお疲れかと存じます。お部屋へご案内致します」

 流石、フリックの父親。

 慇懃無礼さが際立って見えるが、アルベルトは私より下に見られていることに全然気づいていない。

「王都よりはマシだが、犬小屋には変わりがないな」

 アルベルトの言葉に殺気立つ。

 特にレイモンドは綺麗に殺気を隠しているが、目が全然笑っていない。

「殿下は、ユーモアがお有りでいらっしゃる。殿下がお住まいの城と比べれば、犬小屋に見えるかもしれませんね。窮屈な思いをなさるかもしれませんが、滞在中は精一杯おもてなしをさせて頂きます。どうぞ、ごゆるりと満喫して下さいませ」

「フン、この女の生家など興味がそそられるものがあれば良いがな。精々俺を満足させてみせろ」

「我ら一同誠心誠意接待させて頂きます」

 接待はするが、歓待(=款待)はしない心づもりだろう。

 レイモンドは扉を開き、アルベルトを一番遠く日当たりの悪い客室に案内した。

 アルベルトが屋敷内で動き回れるのは、ごく一部のエリアに限定すると事前に通達しておいた。

 見られたところで今の彼にその価値が分かるとは思えないが、アルベルトを使って何かしようと企む者も居ないとは限らないので用心するに越したことはない。

 護衛と称してアルベルトにはユリアの夫ルイと屋敷の警備長イオン、副長キースをつけた。

 余程の事が無い限り平和なので、何か起きた時の警備の指揮はレイモンドに一任しておいた。

 視察という名の監禁勉強会が始まった。

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