分かっちゃいるけど、やることがいっぱい
マリアンヌの托卵が発覚し、秘密裏に彼女は殺された。
注射器で大量に体内に空気を取り込んで空気塞栓症を態と起こして殺すように指示を出した。
イグナーツが臥せっていることで、マリアンヌはアイビーの宮に監禁状態なのが好都合だった。
アルベルトが実母のところに顔を出している様子もなかったし、父親と同じ流行り病とでも言えば、近付きもしないだろう。
王妃と父が速攻でアルベルトの王位継承も剥奪したので、私の王位継承権が繰り上げになってしまった。
分かっちゃいたけど、早く無事に子供を生んで欲しい。
王の病床に愛妾の死が続くと、生まれてくる王妃の子に文句をつけてくる輩もいるだろう。
なので、王妃の子が誕生してから一年後に死んだことにしようと私と父と王妃で口裏を合わせることにした。
元々、王妃が政治を動かし表に立っていたうえに、加えてここ一年は社交界に出る事すら許されていなかったので隠し通すのは骨が折れるが難しいことではない。
マリアンヌ殺害前に彼女の側仕えや使用人を一斉解雇。
尻軽な主に仕えていただけあって、単純に解雇するには十分過ぎる証拠がザクザクあった。
逆に損害賠償請求を起こしても良いくらいのものまであった。
解雇後も王宮での知りえた情報などを漏らさないことを条件に損害賠償請求はしないと言えば、二つ返事で了承して辞めていった。
勿論、魔法で色々と誓約させて貰った。
精霊魔法は、私が思った以上にチートだった。
マリアンヌが不在だと不自然になるため、ちゃんと影武者を用意した。
アングロサクソン家の息が掛かった者だ。
出来るだけ体型や雰囲気の似た女性を探し出すのには苦労した。
精霊達に頼んだら、対価に魔力をごっそり抜き取られたからね。
あの虚脱感は、もう二度と体験したくない。
マリアンヌの影武者と侍女や側仕えをアングロサクソン家の者で固めた。
アルベルトが訪ねてくることは、万が一あったとしても門前払いすれば良い。
そんなこんなで粛々と事務手続きの様に秘密裏に色んなことが処理されて、ハレムは良い感じに綺麗になった。
国庫の金食い虫二人が事実上存在しないので、そいつらに割く予算が浮いた。
浮いた予算は、国営事業として川や道路の設備に当てて国の経済活性化に一役買った。
王妃は臨月を迎えたので、国政は全て父が取り仕切っている。
私は、サンドバックを手に入れたので何かにつけて教育的指導と称してアルベルトの横っ面を引っ叩いていた。
あいつ、私に何回引っ叩かれても怯えるどころか歯向かってくるんだよなぁ。
唯一褒めるとすれば、その反抗心くらいだろうか。
アルベルトの補佐をする人間も選別しなくてはならない時期に差し掛かり、国の重鎮たちから募るが誰もが嫌がり進んで手を挙げる者がいなかった。
将来は良くて一家臣で、悪くて処刑が確定している人間に仕えたいとは思わないだろう。
アルベルト付きでも有能であれば将来重要なポストに就けることを確約することで、それならばと子供を差し出す親も出て来たのでホッと一安心だ。
王子主催パーティーを開き、重役の子供と顔合わせをしようということになった。
私は一応婚約者なので、同席は必須だ。
パーティーの進行の段取り、賓客達に振舞うお菓子やお茶の用意、参加する際のドレスなどやる事が沢山あり過ぎて投げ出したい。
「あ"ー、サボリてぇ」
「リリアン、口調が崩れてるから直して。メアリー様に見つかったら叱られるわ」
アリーシャが、困った顔で私を窘める。
バーバリー伯爵夫人に見つかったら、扇子でビンタを喰らうだろう。
「やることが多すぎるのよ。王子主催なのに、その手配を何で私がやらなきゃいけないわけ? 私が身を粉にしてお金を稼いだり、勉強したりしているって言うのに!!」
王妃教育・聖女教育・事業家の三役をこなしているのに、これ以上負担をかけないで欲しい。
「アルベルト様に任せたら、お粗末なパーティーになるのは間違いないと思います」
「……正論過ぎてグウの音も出ないわ。せめて、パーティーの時くらいは体裁を繕える外面を身に付けさせたい」
パッパラパーな傲慢王子だと知れ渡ったら、それこそ王家に傷が付く。
「口を開かなければ、顔は良いんですよね?」
「そうね。口さえ開かなければ、ロマンス小説に出てきそうな王子様よ。顔だけは良いのよね。顔だけは」
「その言い方だと顔しか取り柄が無いと言っているみたいですよ」
「だって、本当の事だもの。顔を取ったら何にも残らないわよ」
勉強から逃げ回り、婚約者に対しては暴言を吐く、下々を見下し自分のために動いて当然という考え方が気に入らない。
「アルベルト様主催のパーティーを企画するなんて急ですね」
「今年で八歳になるからね。アルベルト様にも学友は必要でしょうし、いつまでも側近がいないのは不自然になるでしょう」
アルベルトの表向きは、この国の王子となっているので避けては通れない問題である。
側近たちがアルベルトの手綱を握りコントロール出来るくらい有能であれば、後々取り立てて王妃の子供に宛がう予定である。
何はともあれ、パーティーで目ぼしい人材を見つけるのが私の仕事だ。
「側近候補の確保が出来れば良いな……」
書類の束を見つめながら、私は大きなため息を吐いた。




