国政を担う者の役割
陛下が不治の病にかかったというのは、表向きの話。
真実は、精霊の顰蹙を買って火炙りにされて今も幻影を見せられ続けて精神は崩壊してしまった。
ハレムの一番奥にある塔へ幽閉された。
一方、寵姫は王という後ろ盾を失い王宮での地位はもう無いに等しい。
ここで、陛下への愛が本物であったならば少しは違っただろう。
マリアンヌは、陛下の発狂ぶりを目のあたりにして悲鳴を上げて逃げたそうだ。
王宮に働く者の間で噂となり肩身の狭い思いをしているようだ。
その証に、薔薇の宮を追い出され王のいる塔の傍のアイビーの宮へと移された。
それを聞いた時、王妃も皮肉なことを考えるとゾッとした。
花言葉が、『死んでも離れない』にかけて『死んでも離れさせない』の意味で追いやったんだろう。
ああ、怖い怖い。
陛下不在でも政治は回る。
察しの通り、政務の大半が王妃が行っていたから大きな混乱はない。
しかし、臨月を間近に迎える彼女に国政を任せるのは大変な負担になる。
その為、王家の影であるアングロサクソン家が駆り出された。
久しぶりに父を見た時の私の一言が、彼の心を深く抉った。
「何でお父様がいらっしゃるの?」
膝から崩れ落ちる父の姿を見て、傷つく要素があったかなと首を傾げた。
「陛下が倒れ、王妃殿下もこれからお産に入る。一時的に、私が指揮を執って政を行うのだよ」
「じゃあ、お爺様は?」
「一時的に当主に戻って貰う」
「嫌だ!」
逃げようとするシュバルツの背中に、強烈な蹴りが叩き込まれた。
「グフォッ」
そのまま顔面から大理石にダイブし、しゃちほこのような恰好になっている。
蹴り飛ばしたのは、まさかのメアリーである。
「大旦那様、手間を掛けさせないでくださいませ。早々に隠居して放浪していたんですから、これを機に少しでも役立って下さい」
スッと差し出された手に、フリックが縄を渡している。
ツーカーの仲ですか!!
両手足を縛り、その縛り方が自力で解けない縛り方をしている。
簀巻きも酷かったけど、メアリーの縛り方も別の意味で酷い。
「嫌じゃぁぁあ! 折角、隠居したのに何でワシが当主に舞い戻らねばならんのじゃ!! ワシは、ここでリリーと一緒に過ごすんじゃ」
ゴロゴロと床を転がりながら抵抗するシュバルツに痺れを切らしたフリックが舌打ちして、手刀で沈めた。
それを俵担ぎすると、
「旦那様、お嬢様お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません。コレは、領地に連れて帰って父のレイモンドに引き渡してきます」
と言ってのけた。
その言葉に、父も苦笑いしている。
「ああ、頼むよ」
「お父様、私の可愛い弟妹はどうしていないのかしら?」
「まだ首が座ったばかりだから連れて来れるわけがないだろう」
「そうですか。でも、写真は撮ってくれてるんですよね? 何で送ってこないんですか? 何度も手紙で書きましたよね?」
ニコニコと笑みを浮かべながら父を問い詰めると、写真のフィルムは全て別の用途で使ったと白状した。
「お父様の馬鹿ぁぁぁ!」
体力強化したビンタは、結構な威力でした。
非力な幼女でも、体力強化したら大人一人軽く吹っ飛ばすくらいは出来るようです。
パンパンと手を叩き吹っ飛んだ父の胸倉を掴んで忠告を一つ。
「次はありませんからね」
その言葉に、父はコクコクと頭を縦に振った。
「見ないうちに娘が暴力的に育った……」
なんてメソメソと泣いているが、睨めば黙りこくった。
「お父様よりもお母様と私の可愛いエンジェル達が来れば良かったのに」
私の言葉が追い打ちになったのか、父は暗雲を背負い部屋の隅でいじけていた。




