アルベルトの性根は腐っている
アルベルトとの授業は、本当に苦痛としか言えない。
例の暴行事件で手を出すことはなくなったが、以前にも増して敵視してくる。
私と一緒に授業を受けるから、授業態度も悪いのではないかと相談したが、あれが通常運転と言われた時は愕然としたものだ。
一国を率いる王が『馬鹿』だったら、本当に国を滅ぼしかねない。
これは、早急に何とかせねばと思い王妃様に時間が取れないか確認して要相談だなと思っていた。
ダンスの練習中に、アルベルトから声を掛けられた。
「貴様、ここに来るたびに鍛錬場へと通っているようだな。その年から男漁りか?」
「は?」
いきなり何言ってんだ、この馬鹿王子! と思わず言いかけて言葉を飲み込んだ。
「婚約者が居ながら堂々と男漁りする女が王妃になることを許容しているこの国は間違っている」
「鍛錬場に行くのは、遠征用の非常食について感想を求めたり一緒に鍛錬をさせて貰ったりしているだけですが」
ダンスの合間に足を踏んで来ようとしたので、ステップをずらして回避し仕返しに足を踏んでやった。
「痛っ! まともにステップも踊れないのか」
「ああ、失礼しました。殿下がステップを変えたので、私もあわせて変えたら先に足があったのですよ。決してワザとではないですよ?」
「俺が下手だと言いたいのか!!」
「上手いか下手かの二択なら、ド下手くそですわね。私の側近の方が、もっと上手ですしリードして貰えますわ。こう言ってはあれですが、殿下をリードしているのは私でしてよ。最低でもダンスは3曲踊れるくらいでないと、公式の場で恥をかくのは殿下です。私は、色んなステップを踏めますので大体即興で踊れますわ。でも、殿下は出来ませんでしょう? 私の足を危うく踏みそうになるくらい下手なのですから」
キッパリと言い切ると、私の身体を突き飛ばしやがった。
踏みとどまることは出来たが、ここは転んでみせるのが定石だろう。
「キャアッ!」
受け身を取りダメージを抑えながら転がる私を見下ろすアルベルトの表情は、本当に醜悪だった。
底意地の悪いガキが、いじめを行って笑っている構図が完成した。
「ふん、興覚めだ」
「殿下! リリアン様に何をなさるのですか!!!」
ダンスの講師がアルベルトを諫めるが、
「あいつが、勝手に転んだだけだろう」
と嘯いている。
「明らかにリリアン様の身体を突き飛ばしました! 陛下に報告致します」
「証拠はどこにあるんだ? たかが講師のお前が喚いたところで、父上が聞く耳を持つはずないだろう。それ以上、ごちゃごちゃ文句を吐くならクビにするぞ」
本当に性根の腐った男だ。
あのアホ陛下とビッチ寵姫に育てられれば、こうなるのかと辟易した。
このやり取りは記録されいるから証拠云々言われたら出せるが、それをアルベルトが知ったら姑息な手段を考えてきそうなので教える必要はないだろう。
確かに動画を撮る技術は、試行錯誤している段階でまだ手に入れてない。
状況証拠は揃っていても物的証拠は出せない。
証言だけで罰していたら、それこそ冤罪が山盛り出来てしまう。
「先生、私は大丈夫でしてよ。下手な足さばきにうっかり私が踏みそうになったのを、殿下が気付いて回避されるために突き飛ばされただけですわ。もし、クビになるような事がありましたら是非ともアングロサクソン家へ。再就職を用意致しますわ」
寧ろ両手を挙げてウェルカム状態だ。
私の言葉が止めを刺したのか、アルベルトは授業中にも関わらずバンッと扉を乱暴に開けて出て行ってしまった。
このパターンは、戻ってこず放置されるな。
私は、スクッと立ち上がりパンパンとドレスについた埃を払った。
「あの様子だと殿下はお戻りにならないと思いますので、私と一緒に王妃様へ報告をお願いできますか」
すまなそうな顔をしながら講師の顔を見ると、苦笑いを浮かべて快諾してくれた。
「リリアン様も大変ですね」
「私より先生達の方が大変ですね。他の先生方にもクビになったら我が家を頼るようにお伝え下さいませ。優秀な人材を捨てるなんて勿体ないことしたら、罰が当たりますわ」
私の軽い勧誘に笑みが零れる。
幼女の満面の笑みは、大人には眩しいらしい。
「報告に行きましょう」
私は、講師を引き連れていつものように王妃のところへ向かった。
その時、本当に小さな声で「無能から有能な人材を引きはがせるって本当に楽しいわぁ」と呟いていたら始終見聞きしていたウンディーネがドン引きしていた。




