同郷の者とオタ話
名前は、イグニスさん。
まさか、アリスの雑貨屋の亭主がオトメンで同郷の者だとは思わなかった。
ラフ画を描きながら、契約の話を進めつつ前世の話で盛り上がった。
「私の前世は女の子だったの。十七歳で死んだのよねぇ。身体も弱くて殆どがベッドの上だったわ。唯一の楽しみが本だったの。病室って精密機器がいっぱいでゲーム機とか持ち込めないから」
「そっか、頑張ったね。私は、過労死だったよ。いやー、中二病を拗らせまくって処女で、お独り様を爆走してたわ。男は、二次元のBLに限る」
「恋愛したいと思わなかったの?」
「いや、全然。仕事に忙殺されていたし、自分の時間を他人に奪われるのが嫌なのよね。恋愛は、見ている方が楽しいのよ。ああ、でも夢小説は好きだったかも」
「夢小説? どんなもの?」
「ほら、本を読んでるとキャラクターと疑似恋愛してみたくなるじゃない? その願望を叶えたのが、夢小説なのよ! 私の初恋は、鬼太郎だったわ。夢子ちゃんが羨ましかった」
懐かしいなー。
遠い目で、幼い自分を思い返すと腐る前兆は幼少からあったということだ。
「私は、りょう様よ! 毎回モッコリしてるけど、真剣な時はビシッとしててカッコイイの~」
「そうなんだ? その漫画、続編出てたよ」
「本当ですか!! 知らなかった……」
「私で良ければ教えるわよ! と言っても、連載中に死んだから途中までになるけど良い?」
「構いません! 是非、教えて下さい」
漫画談議に花を咲かせるマッチョと幼女。
はたから見たら異様な光景だろう。
レースの手袋とドレスを頼んでいたら、カランカランとドアベルが鳴った。
「リリアン様、やっと見つけましたよ!」
「一番乗りは、アリーシャね」
「いきなり身体強化して護衛を撒かないで下さいよ」
ゼーゼーと息を切らしているアリーシャに、私は鞄の中に入れていた水筒を取り出して渡した。
「取り合えず、これでも飲んで落ち着いて」
「……頂きます」
水筒に口を付けてゴクゴクお茶を飲み干す姿が、何とも男らしい。
一息ついた彼女は、空になった水筒を返して私にお小言を零している。
「リリアン様が私たちを撒いた後、ハチの巣を突いたような大騒ぎになったんですからね」
「ロイドの挑発に乗ってあげただけよ。それに、アリーシャ達なら私を見つけれると思ったからね」
「まあ、日頃の行いを間近で見てますからね」
何か棘のある言い方だけど、気にしないでおこう。
私の手元にあるラフ画を見て、アリーシャが首を傾げた。
「これは、新しいドレスですか? 幾何学的な模様ですが、そのような反物はありませんよ」
「ああ、これはレースというものよ。レース作家のイグニスさん。私と専属契約を結んだから、これでお洒落の幅が広がるわ」
お店に飾ってあるレース作品を見せながらドヤ顔をする私に、アリーシャは感嘆しレースを眺めている。
「これは、綺麗ですね。確かにレースが加われば、ドレスの幅も広がりますね!」
「でしょう! 後、イグニスさんに弟子を取ってもらうの。うちで雇って量産するつもりよ。絹の染色も試験的に進めているから、それを融通して貰えば良い物が作れると思わない?」
「確かに。髪飾りにしても良いですね」
マッチョなオトメンと私とアリーシャでレースのデザインに花を咲かせた。
アリーシャがアリスの雑貨屋について三十分後にガリオンが到着し、その一時間後にロイドが到着した。
「リリアン様!! ここに居たんですね!」
「ロイド、遅かったわね。待ちくたびれて帰ろうかと思っていたところよ」
「護衛を撒いてどっかに行くのは止めて下さい!!」
「幼女に撒かれる無能な護衛」
あれだけ大口叩いて自信満々にしていたのに、私に撒かれるなんてまだまだである。
屋敷に戻ったら全員フリックとメアリーに扱かれるが良い。
「……そういう問題じゃありません」
「そういう問題よ。大口叩いていたのに、この為体。貴方が年齢の割に優秀なのは理解しているけど、曲がりなりにも主人の娘を侮るからこうなるのよ。貴方は、私を侮った。だから、簡単に見失ったの。アリーシャやガリオンたちの方が優秀ね」
「……」
私は、ロイドの悔しい顔を見て留飲を下げた。
「じゃあ、イグニスさん。これ前金です。納品期日は1ヶ月後という事で。また、会いましょう」
私は、契約書のみ持ってアリスの雑貨屋を後にした。
私を挑発して撒かれたロイドは、再教育という名目でフリックにボコボコにされていた。
故意に撒いた私もメアリーにお説教を食らい、再教育という名目で反省文を書かされた。
小説風に書いたら、物凄く怒られたが出版する方向に何故か話が進んでしまいペンネーム『ルミナス』という名前で作家デビューした。




