バカはDVへ進化した
アルベルトからの呼び出しがあり、のこのこと行った私が馬鹿だった。
私の顔を見た開口一番の台詞が、
「何だあれは!! アンジェリカ様が持っているものよりも貧相ではないか! 貴様、俺を馬鹿にしているのか」
で、私が贈ったチェキもどきを床に叩きつけて壊した。
製造ラインから弾かれたと言っても、性能的には問題ない代物だ。
原材料だけでも金貨3枚は掛かる。
それに技術料や税金やらかければ、王子のお小遣いでも購入するのは躊躇するくらいの高価な物だ。
それを目の前で壊されるとは思わなかった。
精密機械ゆえに脆い。
残骸をしゃがんで集める私に対し、
「国一番の性能が良い物を寄こすんだな」
と宣った。
そこで私の堪忍袋の緒が切れた。
「……物を大切になさらない方に贈る物なんて御座いませんわ」
「次期国王の俺を馬鹿にしているのか!」
「話をすり替えないでくださいまし。この機械だけでも金貨100枚は下らないのです。婚約者とはいえ、高価な物を贈ってくるように催促すること自体あり得ないんですよ! ましてや、贈ったものが気に入らないというだけで壊す方に贈り物をしたいとは思いませんわ。金輪際、貴方様への贈り物は控えさせて頂きます」
ガーッとノンブレスで言い切ると、アルベルトはブルブルと肩を震わせている。
頭から湯気が出ているんじゃないかと思うくらい顔が真っ赤になっている。
「お、お前…っ!!!」
振り上げられた手が、私の頬を強く打つ。
バチンッと良い音がした。
避ける事は出来たが、敢えてビンタを受けた。
何故かって?
勿論、アルベルト有責の実績を作るためである。
理不尽な怒りで私を殴った構図にすれば良い。
アルベルトの軟弱ビンタでよろけることは無いが、ここは叩かれた拍子に転んだ方が効果があるだろう。
頬を抑えながら、絨毯の上に倒れ込む。
「……酷い」
取り合えず泣いとくかなーと思っていたら、部屋の中が騒がしいことに不信を持った近衛兵が部屋の外から声を掛けてきた。
「殿下、リリアン様、凄い音がしましたが何かありましたか?」
「何もない!」
私を殴ったとは言えないよね。
アルベルトはその場しのぎに返した後、私を睨みつけて言った。
「それは、お前が壊したんだからな! それを俺が罰したんだ。余計なことは言ったら、お前の家がどうなるか分かっているよな」
どこの悪役だよと心の中で突っ込んだ。
私たちの言動や行動は、誓約書に署名した瞬間から記録に残るというのに馬鹿過ぎる。
「……」
私は無言で返すと、肯定とみなしたのか鼻を鳴らしてどこかへ立ち去ってしまった。
残骸をハンカチに包み、私はハァと溜息を吐いた。
口の中で血の味がする。
多分、切れてしまったのだろう。
今出て言っても、時間を置いて出ても顔の腫れは変わらない。
それなら家に帰って手当して貰った方がマシだ。
私が部屋を出ると、私の顔を見た近衛兵がギョッとした顔をして何があったのか聞いてきたが、私は何も言わなかった。
少しばかり「殿下のご機嫌を損ねてしまって…」と悲しげにしておいただけだ。
これでDVが加わったな。
帰ったら医者を呼んで診断書書いて貰おう。
勿論、診断書は保存して慰謝料を請求する腹積もりである。




