懐妊と共に王都へ移動命令が下された
無事誕生日パーティーも済みひと段落と安心しきっていたら、王妃様懐妊の号外が舞い込んできた。
それを見た時、アリーシャから『物凄く悪い笑み』をしていると言われた。
「これで王太子の座が、分からなくなってきたな」
「アレは、王の器ではありません。是非とも第二王子を為政者の器に育て上げて頂きたいものです」
愚王でなければ良い。
隣に立つ女性が、フォローすれば良いだけの話だ。
名目上は、アルベルトの婚約者ではあるが年頃には破棄するので良さげな物件に唾を付けておこう。
「シンディとローランが生まれて我が家も賑やかになりましたね」
「そうだな。そろそろ、王都へ移って王妃教育を……」
「は? 何言っているんですか! 生まれたての子供を何日もかかる王都へ連れていけるわけないでしょう。お父様、馬鹿も休み休み言って下さい」
最近、私の天使たちが生まれたのだ!
まさか双子だとは思わなかったが、一気に弟妹が増えた。
双子は禁忌と敬遠されがちだが、私はお得感満載ではないかとフィーバーしていた。
「王都へ来いという要請が頻繁に来るんだよ」
「知りませんよ、そんなもの。私にしたら、弟妹以下の存在に時間を割きたくありません」
可愛い弟妹をモデルに赤ちゃん服のブランドを作ったばかりなのに、邪魔されて堪るか!!
断固拒否と突っぱねると、父は米神をグリグリと親指で抑えながら大きなため息を吐いた。
「リリアン、アルベルト殿下との仲を少しでも改善するポーズは取っておくべきだ。お前がその調子なら、アルベルト殿下に非があったとしても歩み寄りもしなかったお前の責任という形になるんだぞ」
「お父様、物凄く嫌な響きですね。一応は、努力しているじゃないですか。半月に一回はお手紙出してますし。返事はありませんけど」
「……それは、王妃殿下のついでに出しているだろう」
呆れた顔で私を見る父に、
「だって、アレに出したところで返事もありませんのよ。お義理は果たしているんですから良いじゃないですか」
と答えたら、母に叱られた。
「リリー、そういう問題じゃないのよ。常に王妃殿下のおまけ扱いしているから、世間的に大公家は王妃様のお子を押していると思われかねないのよ」
「いや、実際そうですが」
「貴女は、腐ってもアルベルト殿下の婚約者なのだから殿下を立てないといけないわ」
母の正論に、私はウヘェと嫌そうな顔をしただろう。
あんぽんたんな王子に、媚びをうる必要性を感じない。
生理的に無理なのに、半月に一回報告書を書くよりも難易度が高い恋文(笑)を書く私の身にもなってほしい。
「要約すると、王都に行って馬鹿王子との親睦を形式上深めましょうという事で宜しいですか?」
「分かっているなら、さっさと行きなさい」
「シンディとローランを置いていけません! 折角、色んな産着を考えているのに」
獣っ子シリーズとか、ピンクなフリルシリーズとか色々だ。
最近、やっと蚕の養殖に成功して絹が手に入るようになったのに。
こんなところで頓挫したくない。
「シスコン・ブラコンも過ぎたら変態よ」
母の痛恨の一撃に、私のヒットポイントは1まで削られた。
この人、何気に精神的に抉ってくるんだよね。
周囲を見渡しても、皆全員目を逸らす。
私に味方はいなかった。
「……分かりました。王都へ行きます」
「この子達がもう少し大きくなったら王都へ連れて行くから我慢しなさい」
母の言葉に、私は泣く泣く頷いた。
母の『大きくなったら』が、何歳を意味しているのか聞きたかったが聞いたら支えがポッキリ折れそうなのでやめておいた。




