この世界の婚活事情
アングロサクソン領は、只今産業革命真っただ中で御座います。
国の中で一番経済が活性化していると自負しています。
左うちわで優雅に暮らせるとか阿呆なことは思ってませんとも。
そんな私は、もう直ぐ六歳になります。
技術保障をする『特許制度』を導入しました。
一応対処はしていたのだが見せかけだけのコピー品が出回ったので、アングロサクソン領のみですが発明者または承継人に対し『特許権』を付与することにしました。
アングロサクソン家が、承認したという事実が社会的に保障されているものというステータスになるので発明家達には悪い話ではない。
その技術を一定期間独占出来る権利もあるので、ついでに著作権も制度として作ったら製作者や発明家から株が上がった。
前世の知識では、色々と穴があるので父にその辺りは詰めてもらって丸投げしました。
私も色々と前世の知恵を借りて、色んなものを商品化しました。
特許や著作権を取得しているので、個人資産は領の税金よりも潤ってます。
でも、逆を言えば自分で自分の首を絞めていたりする。
「ううっ……遊びたい」
勉強の時間半分、自分が世に出した発明品の商品化や販路の確保などの書類が半分。
幼児なのに、過労で死にそうだ。
「お嬢様が、はっちゃけて色んなものに手を出したツケが回ってきただけですよ」
「ユリア、最近コメントが辛口なんだけど」
目の前に置かれたお茶を啜りながら文句を言うと、
「お嬢様が私にあれこれ用事を言いつけるんですもの。文句の一つくらい言いたくなりますよ」
と愚痴られた。
「いや、ちゃんとお給金増やしてるでしょう」
「それは嬉しいです。でも、私も適齢期なので出会いが欲しいんですよ! それなのに、お嬢様ときたら私をこき使って……」
雇い主の娘を目の前にして言うなよと思ったが、彼女の言わんとしていることは分かる。
この世界の結婚適齢期は、十五歳から二十歳までである。
それ以上超えたら、行き遅れ認定されて欠陥があるのではと噂されて婚姻のハードルが高くなってしまう。
「ユリアは、今年で十九歳だっけ?」
「違います! 二十歳です!! だから焦っているんですよ」
ユリアは、私が生まれた頃にはお屋敷で働いていたのだから五年以上は働いていることになるのか。
前世ではお独り様が周囲に沢山いたし、三十代で結婚も多かった。
それもあってか、十代での結婚や婚約はピンとこないのだ
「職場婚を狙ってみるとか」
「それが出来たら苦労はしません! 大体、仕事で出会いなんてないんですよ!!」
バンバンと机を叩くのは止めて欲しいんだが。
「館で働く人の半分は男性だよ? 出会いはあるじゃない」
「良い男は、既婚者か彼女もちなんです」
この世界でも名言は一緒なのね。
前世では、その後に「もしくは同性愛者の三択なのよ』が付随される。
「……婚活パーティーか」
「お嬢様! 婚活パーティーという響きが凄く気になるのですが、どういうものですか?」
ぐわっと食いついてきたユリアに、私はざっくりとした婚活パーティーの概要を説明した。
「それ商売になりますよ! 私みたいに結婚したい女性の最後の砦になり…痛っ。お嬢様、暴力反対ですよぅ」
「ユリアが、ヒートアップしているから止めただけよ。そうね、事業にはなると思うけど……」
試験的に婚活パーティーを開くのは悪くないかもしれない。
何回か催して好評なら商会として立ち上げるのも悪くはない。
「よし、屋敷で働く未婚男女を集めて婚活パーティーをしましょう」
「本当ですか!?」
「嘘は言わないわよ。お父様の許可が下りたら開催するから、ユリアの方もそれとなく情報を流しておいてね」
「分かりました! お任せ下さい」
ユリアは物凄く良い笑顔でスキップしながら部屋を出て行った。
部屋を出たところをメイド長に見つかったのか叱られている声が聞こえてきた。
あのポンコツメイドに春は来るのだろうか。
そんなことを考えながら、お茶を啜りながら書類を片付けていった。