アルベルトからのヘルプコール
久しぶりに聞きたくもない声を聞く羽目になり、清々しい気分が一転し心は荒れに荒れている状態です。
「……殿下、こんな朝早くに連絡を寄こすなんて……一体どういうおつもりですの?」
殺すぞと危うく言いかけて、慌てて口を噤んでしまった。
言わなかったからセーフ、セーフ。
「赴任してきたマナー講師、お前の差し金だろう! 何とかしろ!!」
バーバリー伯爵夫人に容赦なく、(物理的に)ボコボコにされている姿が目に浮かぶわ。
私は、ウマーな状況なので何とかする気はない。
「わたくしの権限で学園の人事を左右できるとお思いで?」
「学園長のクビをかっ飛ばした奴が何を言う!」
私に人事権なんてありませんなスタイルを貫こうとしたら、痛いところを突っ込まれた。
アルベルトのくせに、細かいことを覚えていやがる。
「言いがかりは止めて下さいまし。元学園長は、ご自身の怠慢さが招いた結果であって、わたくしのせいではありません。過去に色々と問題を有耶無耶になさった経緯もあったので、退任を要求しただけですわ。あの退任も、ちゃんと皆様に是非と問うておりますもの」
実際に動いたのはアリーシャ達だ。
私は、手紙で元学園長と反目する派閥の人を少しばかり煽ってみただけである。
それが、面白い具合に転がってクビという結果が付随しただけだ。
「ぐっ……だが、新たに着任した学園長はお前の息が掛かっているだろう!」
「失礼ですわね。わたくしは、賢者スミス師より良い人材を紹介して頂いただけですわ。賢者の口利きですのよ? 不祥事を起こした学園のイメージ回復に一役買ってあげたというのに、失礼極まりない暴言ですわ」
学園のイメージダウンを引き起こした張本人が口を出すんじゃねぇと暗に圧をかけてみるが、馬鹿なアルベルトに通用するはずもなかった。
「バーバリー伯爵夫人も似たようなことを言っていたな」
「……貴方、ご自分が学園の品位を落としたこと自覚ありませんの?」
「いつ落としたというのだ。そんなことより、バーバリー伯爵夫人を辞めさせろ! それか、マナー講義を受けなくて良いようにしろ」
「……」
思わず通話ボタンを押していた。
通話を強制的に終了し、二度寝してささくれた気分を癒そうと思っていたら、速攻で着信が掛かってきた。
暫く放置していたが、あまりにもしつこいので出ましたとも。
「しつこいですわ!! 電話に出たくないアピールに何故気付かないんですの?」
「お前が、話の途中で電話を切ったからだろう! こっちは、死活問題なんだ!!」
「想像は容易につきますが、殿下がバーバリー伯爵夫人の提示する基準に合格すれば良いだけの話です。わたくしには、関係ありません」
バーバリー伯爵夫人は、マナーに厳しいだけで悪い人ではない。
マナーのなってないアルベルトに、彼女ほど適任者はいないと誰もが納得する人物だ。
アルベルトを叱れる貴重な人物だ。
私の不在時に、また馬鹿な暴走をされては困る。
バーバリー伯爵夫人は、そのための保険であり抑止力でもある。
「お前は知らないだろうが、休日も補講だと呼び出されてマナー講義を受けさせられるんだぞ! モデル業が続けられなくなっても良いのか!?」
聞き捨てならない言葉が、アルベルトから飛び出してきた。
「モデル業が続けられなくなるとはどういうことですの? 契約を破棄するおつもりですの?」
「誰も破棄するとは言ってない! バーバリー伯爵夫人が、放課後だけでなく休日まで補講を詰め込んできては、撮影もままならんと言っているのだ」
「まあ! それは、由々しき問題ですわね」
「そうだろう。だから、バーバリー伯爵夫人を辞めさせろ」
「あ、それは無理です。彼女は、殿下がまた同じような愚行を起こさないよう監視する為に派遣されてますから。しかし、放課後はともかく、休日まで縛られるのは困りましたね。モデル業に支障をきたされると、売上が下がってしまいます。休日は立派な権利ですので、わたくしからバーバリー伯爵夫人に口添えをしてみましょう」
バーバリー伯爵夫人が素直に私の言うことを聞いてくれるとは思わないので、ママン経由で頼んでみよう。
ママンの言葉なら、無碍にはしないだろう。
精々譲歩して貰えて、撮影日のみ補講無しにするくらいだろうな。
「くれぐれも頼むぞ!」
「分かりましたわ。殿下も、くれぐれも問題を起こさないで下さいませ」
貴様の尻ぬぐいはごめんだからなと釘を刺すと、返事を返すことなくブツッと電話が切れた。
私は、電話をサイドテーブルに置いて二度寝と言う名のふて寝を決め込んだ。
しかし、その10分後にはポンコツメイドに叩き起こされることになる。