リストラ大作戦2
「失礼致します。フリックです」
「入って頂戴」
フェディーラが退出してから10分ほどで、フリックが入れ替わるように入ってきた。
「お嬢様、今回はどのようなお仕事ですかな?」
「人員整理に伴って、栄転した者達を護衛するために、一度王都へ行って来て頂戴」
ニッコリと笑みを浮かべながら告げると、
「なるほど、栄転と来ましたか。王都では、引継ぎの手続きのみということですかな?」
「そうよ」
こちらの意図を説明しなくても理解してくれる。
やっぱり良い男だわ。
欲しいわー。人の夫じゃなかったら、グイグイとアピールして既成事実作ってでも落とすのに。
本当に残念でしかたがない。
アルベルトもフリックまでとは言わないから、せめて普通レベルになっていて欲しい。
バーバリー伯爵夫人投入で、効果があったかは連絡待ちなのが悔しいわ。
「畏まりました。ただ、コレットの教育が済んでおりません。如何致しましょう」
コレットを指示代名詞に置き換えて話すフリックに、私は相当教育に苦労しているのがニュアンスから感じ取った。
「コレットに関しては、フリックがいない間はわたくしが見ますわ。書類仕事ばかりで身体がなまってますの。丁度良いサンドバック2号がいるので、魔法の新技について練習したいと思っていたのよね」
「ああ、的が欲しいんですね。畏まりました。ただ、お嬢様の前で傍若無人、無礼千万な数々をやらかすと思います。その時は、やらかした記録を取って頂けると幸いです。任務が終わった後に、教育方針を考えます」
物凄く良い笑顔で恐ろしいことを言い切るフリックに、私は笑顔が引き攣った。
今も相当厳しい態度でコレットに接しているというのに、これ以上どうするつもりなんだろうか。
コレットは、高確率でやらかすだろう。
毎日、館のどこかしらで彼女の悲鳴が聞こえている。
最近では、嘆きの館とか領民の間で呼ばれているらしい。
不名誉な呼び名を解消したいが、コレットの悲鳴は時間を計るのに丁度良いのだ。
時計はあるが、書類に目を通している時間が長いので見ることが少ない。
その点、コレットの悲鳴は大体1時間置きに上がる。
コレットの悲鳴と共に目覚め寝る生活をしていると、コレットが鳩時計代わりになっている。
「暫く悲鳴が聞こえなくなると、わたくしの体内時間狂わないかしら」
「お嬢様もコレットの悲鳴で時間を計っていましたか。精霊様にお願いをして、一時間毎にコレットの悲鳴が上がるようになさっては如何ですか?」
フリックの提案に、傍にいた精霊達は「賛成!」や「採用だ~」とか言っている。
コレットのこと嫌いだもんね、君達。
フリックの行き過ぎた教育を目の当たりにして、私が精霊達にコレットへちょっかいを出さない様にお願いをしていた。
しかし、この様子だとフリック不在時はやっても良いんじゃない? って感覚で提案に乗っかっている。
こうなると精霊達を止めるのは至難の業だ。
「アルベルト同様に可愛い悪戯に留めて頂戴ね」
そこかしこで「わかった~」と気の抜けた返事が返ってくる。
私の都合で、精霊達の悪戯にあうことが確定したコレットには同情する。
「どれくらいで行けそう?」
「後進が育っておりますので、半月あれば十分かと」
「では、半月後に彼らを王都まで送り届けて頂戴。終わったら直ぐに戻ってきてね。仕事が山積みになっていると思うから」
パパンにフリックの貸し出しをして貰っているので、返せと言われたら少々困る。
ここが落ち着くまでは、有能な執事を手放す気はない。
「勿論ですよ、お嬢様」
フリックの返答に、パパンからの帰還命令が出ても従わないなと確信した。
「ありがとう。では、お願いね」
「はい。お任せ下さい」
これで犯罪者たちの護送役が無事決まった。