リストラ大作戦1
「リストラですか?」
今一ピンときていないフェディーラに、私は言葉を選び間違えたかな? と思ってしまった。
気を取り直して言い直す。
「人員整理のことですわ」
「また、されるのですか? リリアン様が着任してから、結構な人員整理を行ってますよね」
人を減らされたら困る、というフェディーラの心の声が聞こえてくる。
その気持ちは分からなくもないが、既に上の了承は取ってある。
私の配下に指名した王妃を恨んでくれ。
「貴方の不満や懸念は理解しています。不正した者をそのまま雇い続けるわけにはいきません」
「仰る通りです。しかし、今は泳がせると仰っておられたではありませんか」
「十分証拠が集まったので、丁度良い頃合いでしょう。一斉解雇したとなると、解雇された当事者が変な気を起こして危害を加えたりすると面倒臭いので、王都へ栄転と言う名の一斉捕縛に取り掛かります。移送中に逃げられても困りますので、フリックをつけますから安心なさって、お仕事に邁進しましょうね」
ニッコリと笑みを浮かべて、馬車馬の如く働けと圧をかける。
フェディーラの表情から悲壮感が漂ってくるが、知った事ではない。
フリックが抜けるので、私とフェディーラに掛かってくる仕事が増える。
「では、補充する者を雇い直さねばなりませんね」
「そのつもりよ。そこで、これを活用して頂戴」
ノームに作らせたチートアイテム・鑑定眼鏡をテーブルの上に置いた。
「……眼鏡ですか?」
「ただの眼鏡じゃないわよ。魔力を流しながらかけてみて」
フェディーラは、私の言われた通りに眼鏡を掛けて目を大きく見開いている。
慌てて口を手で塞いだのは、悪くない対応だ。
「古代世界の超技術が、何でここにあるんですか!?」
「鑑定って古代世界の超技術だったのね。知らなかったわ」
あっけらかんと返すと、フェディーラは手で顔を覆い大きな溜息を吐いた。
「教会の鑑定石よりも高性能ですよ。どこで入手したんです」
教会の鑑定石よりも性能が高いのか。
それは、良いことを聞いた。
「教える気はなくてよ。一時的に、それを貸し与えるわ。これにサインと拇印を頂戴」
机の引き出しから、一枚の誓約書と朱肉を差し出す。
フェディーラは、誓約書の内容を読んで顔を引きつらせていた。
「……随分と物騒な誓約書ですね」
「破らなければ害はないわよ。寧ろ、恩恵に預かれると思うのだけど?」
誓約書の内容は、大きく分けて3つある。
1つ、鑑定眼鏡の譲渡、および紛失・盗難などが発生した場合、製作費を全額負担する。
1つ、鑑定眼鏡の詳細は一部の例外を除き他言無用とする。なお、違反した場合は契約不履行と見なし死亡する。
1つ、鑑定眼鏡で見た内容は、全て上司リリアンまたは、フリックに随時報告する。報告前に両名が知ってしまった場合、条件付きの重罰とする。
1つ、誓約書の内容の変更は事前に甲がフェディーラへ速やかに伝達し、都度修正をするべし。
三番目の誓約に関しては、難しい場面もあるだろうという状況を鑑みて、少しだけ緩くしてある。
誓約書の内容も私の気分次第で変更可能なので、保険は掛けてある。
王妃から預かった部下なので、粗末に扱うことは出来ない。
「先に言っておくけど、その眼鏡のことは今のところ私かフリックしか話してはダメよ。他の媒体……そうね、例えば手紙で王妃様へ報告とかも違反になるから気を付けて頂戴」
そう釘を刺すと、あからさまにフェディーラの肩が大きく下がった。
「わたくしは、館で通常業務をこなしておくわ。フェディーラは、使えそうな人材を領内から探して私の前に連れて来て頂戴。一応、これが雇用形態になるわ。雇用にあたって、わたくしは身分は問いません。文字が読めない、計算が出来ないという方でも、伸びしろがあるなら育てるつもりで雇うつもりよ。宜しくて?」
「畏まりました」
フェディーラが選民思想の塊でなくて良かった。
フリックに大なり小なり感化されてきている節があるので、人選は彼に任せよう。
後は、フリックに不正に絡んだ人達を栄転勧告をして貰わねば。
「フェディーラ、準備が出来たらすぐに取り掛かって頂戴。それと、コレットと遊んでいるフリックを呼んできて頂戴な」
「畏まりました。リリアン様、御前を失礼します」
フェディーラは、綺麗な礼をしてフリックを呼びに行った。
鍛錬場から聞こえる悲鳴をBGMにしながら、私は書類を片手に次ぎは高性能な耳栓でも作ろうかしらと考えに耽っていた。