少しずつ全貌が明らかになってきました
コレットを下僕にしてから1週間が経ちました。
最初は反抗的だったコレットが、なんていうことでしょう。
フリックの洗脳ともいえる英才教育のお陰で、私を見る度に拝んでくるようになりました。
フリック、お前何をしたんだ? とは絶対に突っ込まないぞ。
突っ込んだら嬉々として語りそうだから無視をさせて貰う。
1週間で、コレットが言っていたダッサイ名前の乙女ゲームについての詳細が分かった。
結論を言うと、非常に似通っている世界ではあるが、エリーナとい公爵令嬢がこの国に居たという事実はない。
それ以外でも、ゲームでアングロサクソン家も存在していなかった。
主要な登場人物の名前や世界観は同じだったので、コレットが「転生キタコレー!!」とハッスルしてしまったのも仕方がないのかもしれない。
私も昔は、魔法でハッスルしましたし人の事は言えません。
コレットの報告書の束をバサッと机の上に乱暴に置いて、冷めたコーヒーを啜り、大きな溜息を吐いた。
「元々この世界に転生した時点で詰み確定なのに、コレットの乙女ゲームの内容が進行したら確実に世界の崩壊待ったなしだわ。聖女召喚魔法を一つずつ潰して、召喚出来ないようにしないとダメね」
聖女召喚は、アルベルトが高等学園卒業の年になるとある。
『Holy Maiden~ドキドキ★メモリアル ~』のゲームをザックリと要約すると、本当にありきたり過ぎるストーリーだ。
ヒロインのデフォルメ名は、紫藤唯愛。
普通の女子高校生で、学校の帰りにアースフェクトへ召喚される。
アースフェクトの世界は、魔王復活と同時に人類滅亡の危機に陥っている。
一部は、エルブンガルド魔法学園に通い聖女として魔法を開花させる。
勿論、ここが恋愛パートになるらしい。
二部は、仲間と共に魔王を倒しに行くアクションパート。
一部で落とせた攻略キャラを連れて行くことが出来る。
勿論、誰も落とせなかった場合は国が用意した兵士と共に魔王退治をするという手抜きシナリオっぷり。
魔王を倒した後、幾つかのエンディングに分かれるらしく、各攻略者と結婚するルート、攻略者を落とせなかった場合は聖女として生涯を過ごすルート、逆ハールート、隠しキャラとの恋愛ルートもあるらしい。
隠しキャラについては、コレットがプレイする前に死んだので判明していない。
現時点で、聖女の地位は私が受け継いでいる。
魔王レユターレンは私の部下で、倒すだけなら今でもできる。
それくらい弱い。
俄か魔王については、現在動向を調査中である。
報告書を読んだ感想としては、コレットの妄想の産物ではないかと思いたくなるようなご都合主義的展開のオンパレードである。
「アルベルトの高等部卒業まで残り五年。教会の掌握だけでも手一杯なのに、コレットの報告通りに聖女召喚されてアルベルト以下略が召喚聖女の言いなりになったら目も当てられない」
ただでさえ、王家はアングロサクソン家に大きな借りを作っている。
次にアルベルトが国益を損なうような馬鹿な事を仕出かしたら、本格的に王座を簒奪することになるだろう。
そうならないと言えないのが辛い。
それまでに第二王子が、真っ当に育ってくれれば良いのだけど。
そこは、王妃様陣営の手腕にかかっている。
「コレットの魅了は脅威だけど、使いようによっては十分役立つ。顔はメイクで誤魔化せるし、数年も会わなければ余程じゃない限り顔を覚えていることはないでしょう。フリックに諜報員として役立つように仕込んで貰うとして、問題は奴隷の件ね」
貴族だけでなく教会も一枚噛んでいる。
しかも、今回は法の穴を突いているので真っ黒に近いグレーである。
罰することが出来ないのが歯痒い。
教会で運営している孤児院についてはテコ入れをするとして、国や領地管轄の孤児院まで口出す権利がない。
これに関しては、奴隷法の一部改正が必要になってくるだろう。
そう考えながら、王妃とパパンに提出する書類をタイプライターを使って書き上げていた。
逃げ出してぇ……と考えていたら、ルーゼウスから手紙が届いた。
旧オブシディアン領内で売買されていた奴隷の行方が掴めたとのこと。
買い戻すかどうか返事が欲しいとあった。
さて、どうしたものか。
私は、タイプライターを叩くスピードを上げて報告書の仕上げに取り掛かった。