事後処理
アルベルトとコレットが引き起こした醜聞の後処理は、エバンス兄妹とキャロル達に丸投げしておいた。
勿論、相応の謝礼も用意したさ。
アルベルトの尻ぬぐいのために、何で私のポケットマネーから出さねばならんのだと憤りたい。
後から王家に請求するけれど、払ってくれるか微妙である。
集団訴訟の費用だけでも結構な額になるので、私への支払いは後回しになることは間違いない。
王妃のことだから搦め手できて、あわよくば借金をチャラにしようと考えていそう。
アルベルト曰く、コレットは友人であり、それ以上もそれ以下でもないという回答と共に謎の逆ギレを貰った。
我が家で施したマナーも基礎だけだったので、同性や異性との付き合い方や王族としての立ち居振る舞いは省いていた。
時間もなかったし。
その結果が、この惨状とは情けなくて涙が出そう。
出さないけどね!
アリーシャが用意してくれたコレットとの浮気の事実について問い詰めたら、本気で理解していなかった。
特にコレットを連れお忍びデートに至っては、ヘリオト商会の新作を買う口実のために彼女を使っただけだという。
精霊に裏を取ったところ、アルベルトの言い分は正しく、あろうことか貴族専用の店でファッション勝負をしてコレットに借金を負わせていたことが判明し、思わず足が出てしまった。
流石に顔面に蹴りを入れなかっただけ、私の忍耐力は向上したと断言できる。
アルベルトがコレットに書かせた誓約書を取り上げて、二度と賭け事をするなと強めに言い含めた。
そんなこんなで、自分の仕事がある程度片付いたので領地へ戻っています。
人間ロケットさながら、高速で空を飛ぶ私。
領地から学園まで数時間で移動できるが、聊かやり方が乱暴過ぎる点を除けば便利と言えば便利である。
「宇宙船でも作ろうかしら」
一瞬、飛行機を作ることを想像したが、安全面や移動速度などを考えるとより空気抵抗が少ないUFOの方に軍配が上がる。
まずは、模型になるドローンを開発して成功したら次の段階に進めば良いか。
魔鉄道は気になるが、制空権を獲得できれば他国よりも優位に立てる。
人の移動だけでなく、物流も活発化するだろう。
そこに商機や新たな雇用も生まれるし、考えただけでお金の匂いがプンプンしてくる。
ニマニマとそんなことを考えていたら、あっと言う間に旧オブシディアン領の邸宅の上空に到達した。
「シルフ、ゆっくり下ろして頂戴」
変態シルフに命じると、学園へ帰還した時よりも丁寧に下ろして貰えた。
若干、風圧で庭に咲いていた花が吹っ飛ばされているけれど許容範囲内なので仕方がない。
屋敷の扉を開けようとすると、勝手に開いた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
フリックが綺麗な礼を見せて、私を出迎えてくれる。
私、帰宅時間の延長は伝えたけれど、いつ帰るかは伝えていなかったはずなのに。
流石、アングロサクソン家の家令をしているだけある。
出来る男は違うわ。
アルベルトもこれくらい出来るようになって欲しいものである。
「本日のお仕事はお休みされては如何ですか?」
「そうしたいのは山々だけれども、不正の取り締まりやらテコ入れが思うように進んでいないから無理ね。あの駄犬が、問題を起こさずにいてくれるだけでも十分ありがたいのだけど。無理な話よね……」
ふぅと思わず大きなため息が零れた。
「思い切って婚約を白紙にされてはどうですか? 今、白紙にした方が精神面では大分改善見られると思います」
「あの方が、私という手駒をそう簡単に手放すと思う? 白紙にしたい気持ちはあるけれど、ヘリオト商会のことを考えるなら今のまま期限まで維持し続けて、特大の慰謝料をふんだくる方が良いわ」
アルベルトと愉快な仲間たちは、ヘリオト商会の稼ぎ頭だ。
手放すよりも、愉快な仲間たちへの慰謝料も搾り取れるだけ取りたい。
「クランクシャフト商会から奴隷は買い付け出来ましたか?」
「はい。手始めに通常奴隷を数名購入しておきました」
「私を探っている者達の方はどうなってますか?」
「今は、泳がせております。オブシディアン家の御落胤と噂を流しておきました。すり寄ってくる者が多くなると思いますが、頑張って下さい」
シレッとした顔で無茶振りしてくるフリックに、私は顔を両手で覆い「おおぅ!!!」と乙女らしからぬ声を上げてしまった。