制裁は過激に3
クレーター状態になった地面を見ながら、被った土埃を払い除ける。
周囲をぐるりと見回すと、遠くの方からアリーシャとガリオンが走って来た。
「二人とも、久しぶりね。学園長退任の署名は集まっているかしら?」
「集まってます」
三日間で集まった署名の束をアリーシャが、サッと差し出してきた。
ザッとそれに目を通していたら、ガリオンが頭を抱えながらツッコミを入れてきた。
「アリーシャ、ナチュラルにスルーするなよ! 突如、上空から現れている時点で可笑しいだろう!!」
「スミス先生という前例を見たでしょう。流石に、同じようにとはいかなかったけれど。初めてにしては上出来じゃない?」
「そうですねー!」
飛び級の件で、精霊に頼んでスミスを連れて来て貰ったのを目の当たりにしているというのに、これくらいのことでガタガタ言うのだろうか。
「一応、先ほどの着地で巻き添えを喰らった人はいないようで良かったわ」
「駆けずり回りましたんで! まさか、訓練場に穴をあけるような帰還の仕方をされるとは思わなかった」
「軍馬で駆けても、数日は掛かるのよ。そんな時間と労力の無駄はしたくありません。それで、今回の元凶はどこにいるのかしら?」
コテンと首を傾げて聞くと、教室で待機していると返答が返って来た。
「逃げていないと良いのだけど」
「それは、大丈夫です。簀巻きにしてあるので」
アリーシャの満面の笑みに、相当ストレスが溜まっていたのだなと悟った。
「時間も押していることだし、教室に行きましょうか」
私は、アリーシャとガリオンを引き連れて教室に向かった。
途中、教師を含め周囲の目は恐怖に彩られている。
多少怖がられた方が、学園の内情を把握するのも楽だろう。
カツカツと足音を鳴らしながら、ざわつく教室の前まで辿り着いた。
深呼吸をしてからガラリとドアを開けると、視線が一気に私の方に突き刺さる。
廊下まで聞こえていた騒めきは成りを顰め、息を殺すように重い沈黙が続く。
「皆様、先生、御機嫌よう」
営業スマイルを浮かべる私に、教壇に立っている教師の顔は盛大に引き攣っている。
「あ、ああ……久しぶりだね。本日、リリアン嬢が登校するという連絡は来ていないのだが……」
ニコニコと笑みを浮かべる私に対し、教師の顔色はどんどんと悪くなり言葉も尻すぼみになっている。
「連絡の行き違いかしら? 学園長には、従僕から本日登校するとお伝えしていましたの。要件が済めば、退散致しますわ」
「それで要件とは?」
恐々と聞いてくる教師に微笑みで返して、簀巻きになっているアルベルトの前に立つ。
パチンと指を鳴らして縄を切り、胸倉を掴んで立たせてからグーで右頬を殴った。
「ギャフッ……な、な…何をしゅる!」
顔面を殴られるとは思ってもみなかったのか、殴られた拍子にアルベルトは尻もちをつき頬に手を当ててキッとこちらを睨んでくる。
構図的には、どこぞの令嬢のような座り方をしているが、アルベルトは男である。
キモイと言いそうになり、グッと言葉を飲み込んだ。
「何をする? わたくしが、居ない間にコレット嬢と好き勝手になさいましたね。殿下の尻拭いをするために、態々足を運んだのです。多忙を極めるわ・た・く・し・が! 学園長より直々に殿下に対する処罰を下すようにお願いされましたの」
「ふぃじゃけりゅな!」
「ふざけてません。お黙りになって」
左頬もグーで殴ると、静かになった。
「コレット嬢同様に退学にすれば良いと思っているのですが、学園長が退学以外でと仰られたので退学以外の罰を与えに遠路遥々出向いたのですよ。感謝して欲しいくらいですわ」
フーと溜息を吐いていると、トントンと肩を叩かれた。
振り返ると、アリーシャが首を横に振っている。
「伸びてます」
「手加減したのに、この程度で伸びてしまうなんて軟弱にも程があるわ。ガリオン、殿下は剣術の稽古はなさっているのかしら?」
「最近は、参加されないことが多いです」
間髪入れずに返って来た返答に、私は伸びているアルベルトを見て、こういう奴だったなと再認識した。
「殿下への処罰の甘さに皆様も鬱憤が溜まっていることでしょう。先生、次の授業は中止して全校集会に変更をお願いします。そこで、しっかりと殿下に対する処分を下そうと思います」
「急にそんなことを言われても……」
「授業が一つ潰れるだけです。どこかで調整すれば問題ありません。ガリオン、講堂を使用できるように準備をして頂戴。アリーシャは、殿下の顔に回復魔法を掛けて差し上げて。終わったら講堂に運びなさい」
双子から「はい」と元気の良い返事が返って来た。
流石に顔面を腫らしたアルベルトを全校生徒がいる前に突き出すのは、私の心象が悪くなるのでしないがな!