制裁は過激に
旧オブシディアン領で馬車馬のようにひいこら働かされているリリアンです。
私が不在の時を狙ったかのように、変な女がアルベルトの周辺をウロチョロしているとアリーシャ達から報告を受け、思わずそのまま引き取ってくれないかなぁとちょっと思ったりしていました。
暫く静観するつもりで放置していたら、アルベルトとコレットの数々の迷惑行為に胃薬と鎮痛剤が手放せなくなった今日この頃です。
アリーシャとガリオンにも教育的指導の許可を与えているはずだが、アルベルトに対して何の抑止力にもならなかったのが残念である。
結論から言うと、アルベルトの怠慢でコレットが増長し被害女性が多発するという負のスパイラルが出来上がってしまった。
私自身、領の立て直しと教会絡みの件を探っている最中なので手が離せない状況にある。
一度は帰宅しようかとも考えたが、従僕二人がどこまで出来るか試してみてはとフリックに進言され任せてみたら、被害は思った以上に広がってしまい二人は再教育が確定してしまった。
最終的にキャロルとエマの手を借りて事態の収拾をして貰う結果となったのは致し方無い。
コレットの退学と集団訴訟は想定内だ。
ピューレ家は、多額の借金を抱えている。
更にコレットの不貞行為に対する慰謝料は、総額で考えれば結構な額になる。
多額の負債を抱えたピューレ家に返済能力は無いと断言できるだろう。
負債付きの爵位など売れないとなれば、国が領地を没収して被害者へお金に替えて分配する形を取るしかない。
王妃の手腕が試されるだろうが、私の知ったことではない。
ただ、コレットに関しては少し気になるところがある。
ガリオン達の報告からして、どうも転生者っぽいのだ。
接触するべきか否か考えた結果、一度会ってみることにした。
私の知らない何かを知っている可能性もあるし、育てれば優秀な諜報員になれるかもしれない。
書類を机の上に置き、ベルを鳴らすとレディースメイドが入って来た。
「リリアン様、如何なされましたか?」
「フリックを呼んで頂戴」
「畏まりました」
そう告げると、綺麗なお辞儀をして部屋を出て行った。
フリックの教育の賜物である。
数分後、コンコンとドアがノックされた。
「どうぞ」
「お嬢様、失礼します。如何なさいましたか?」
「フリックに頼み事をしようと思って」
そう答えると、彼はふむと顎の髭を触っている。
「また、奇抜なことでも思いつかれましたかな」
と揶揄うように目を細めて私の反応を伺ってくる。
私が言いそうなことを頭の中でシミュレーションでもしているのだろう。
「コレットを連れて来て欲しいの」
単刀直入に切り出すと、フリックの涼やかな目が鋭くなる。
「私には、攫う価値があるとは思えませんが」
「そうね。売り払ったところで、良くて中金貨一枚くらいかしら。混ざりものだから、高値で売れないわ。わたくしはね、コレットが持っている情報が欲しいの。だから連れて来て」
敢て『攫う』という言葉は使わないでおく。
笑みを浮かべる私に対し、フリックは暫く無言を貫いた後、大きな溜息を一つ吐いた。
「私が断れば、別の者に頼むのでしょうね」
「フリックが、わたくしの頼みを断ることはないと信じているわ。大丈夫。法を犯すようなことはしないから」
「貴族令嬢を攫うこと自体が法を犯していると思いますが」
「あら、わたくしも当事者の一人なのよ? コレットが領に戻る前に、わたくしに謝罪する目的でここに立ち寄ったとしても可笑しいことはないでしょう」
私の言っていることは屁理屈だ。
しかし、矛盾したことを主張しているかといえばそうではない。
コレットが自滅しようが、ピューレ家が没落しようが痛くもかゆくもない。
コレットの持つ情報には興味がある。
ただ、それだけだ。
「……分かりました」
「一応、賓客として扱って頂戴ね。後、わたくしは一旦学園に戻ります。殿下の処罰を下さねばなりませんので。恐らく一日で戻れると思います。不在の間は、ロジャーに任せます。不測の事態が起きて、判断が難しい場合は連絡して来て下さい」
「畏まりました」
「じゃあ、宜しくね」
それだけ言うとフリックを通常の仕事に戻らせ、私は急ぎの書類を片付けて学園に戻る準備をした。