アルベルト攻略開始3
一晩明けて、私とアルベルトの噂がもう学園中に広まっていた。
あんなにベッタリくっついて訓練場に来たんだもの。
そういう仲だって誤解されても仕方がないよね~。
そう仕向けたのは、私だけどね!
ここで調子に乗ると失敗するので、アルベルトと顔合わせた瞬間、申しわけないって顔で頭を下げる。
「アル様、ごめんなさい。皆、何か誤解しちゃって変な噂が流れちゃってて。訂正したんですけど、上手くいかなくて……」
「噂如きで俺の地位は揺るがん。お前も、俺の友達ならどっしり構えていればいいだろう」
ふっ、チョロイな。
満面の笑みを浮かべるコレットとは対照的に、ガリオンからは表情がストンと抜け落ちていることに彼女は気付いていなかった。
「アル様、頼もしいです♡ 昨日聞きそびれていたお肌を綺麗に保つ秘訣教えて下さ~い」
胸の前で手を組み、少しかがんで見え上げるように強請る。
アルベルトは、二つ返事で『是』と答えた。
「放課後は、宿題と予習をするから付き合えないから昼休みで良いか?」
「アル様は、勤勉なんですね。私、歴史やマナーが苦手で……。良ければ教えて貰えませんか? ほら、人に教えると教えた人も勉強になるって言いますし!」
名案と手を叩きながら言葉を選び、接触する回数を増やそうと試みる。
「コレットは、庶民の出で貴族社会に入ったばかりだったな。俺で良ければ教えてやろう」
ドヤ顔の上から目線での返事に、コレットは顔が引き攣りそうになるのを堪える。
「殿下、特定の人間に入れ込むのは止めて下さい。今日も有らぬ誤解が、学園中を賑わしているんですよ。貴方の頭には、自重という言葉がないんですか? それと君も、妄りに婚約者がいる人に馴れ馴れしくしないで頂きたい。殿下は、我が主であるリリアン様の婚約者だ。婚約者がいる異性に、言い寄るのははしたない事だと知れ」
冷たくて無表情のガリオンも格好良い。
ツンデレキャラはスピネルが担当しているんだけど、ガリオンのツンデレも悪くない。
「ガリオン様をのけ者にしているわけじゃありませんよ? 友達なら一緒に昼食を取ったり、勉強を教え合ったりすることはあります。私、ガリオン様にも教わりたいな~」
「俺の言葉が理解出来ない時点で、教えるに値しない存在だと認識しているから無理だな。殿下を頼らず、教師を頼れ。その為の教師だぞ」
最初の方はカチンと来たが、後でデレるなら我慢だ。
「勿論、先生たちにも聞きますよ? それでも、一緒に切磋琢磨するのは悪い事じゃないと思うんです。ね、アル様」
「そうだぞ。お前は、本当に五月蠅い。俺の従者でもないだろう。指図をするな」
アルベルトが、ガリオンを叱ってくれたので心がスーッと気持ちよくなる。
早速私の魅力に取り憑かれているのね。
召喚聖女が出て来ても負ける気がしないわ!
「確かに俺はリリアン様の従者です。しかし、リリアン様不在時は俺と妹が殿下のお目付け役をになっております。これ以上、この令嬢と関わるのであれば、相応の対処をさせて頂きますが宜しいですね?」
「フンッ、あいつの居ない今お前に何が出来る」
「……忠告はしました。おい、お前。さっさとどっかに行け」
ガリオンは、蠅を追い払うかのような仕草で私をアルベルトから遠ざけようとする。
ここは、一旦物分かりの良さそうに振る舞った方がガリオンへの心象も良いだろう。
「分かりました。アル様、お昼休み迎えにきてくれますか? この広い学園内の建物などの場所が覚えきれなくて、私が行くと逆に迷子になってしまいます。お願いします」
ペコリと頭を下げると、アルベルトは鷹揚に頷いた。
「慣れてない場所は、地図があっても迷子になることがあるからな。そういう事情なら仕方がない。迎えに行ってやるから教室で待っていろ」
「ありがとう御座います♡ 流石、アル様!!」
キャーと黄色い声を上げてアルベルトをヨイショする。
ヨイショされたアルベルトは、満更でもないのか得意げな顔をしていた。
「アル様、ガリオン様、お昼休みに!」
私は自分の教室と逆方向の道を態と歩き出す。
案の定、アルベルトが止めてくれた。
「コレット、そっちは教室じゃない。こっちだ」
差し出された手を取り、恋人繋ぎして身体を密着させる。
ピクッとアルベルトの身体が反応したが、文句は言ってこなかった。
婚約者とは、こんな風にスキンシップをしてこなかったのだろう。
初々しくて可愛い。
アルベルトに教室まで送って貰い別れると、遠巻きに見ていた女子生徒が私に声を掛けてくる。
「さっきのってアルベルト様とガリオン様よね? どうしてクラスまで送って来て貰ってるの!?」
「私、方向音痴なんですよぉ。一人でクラスに戻ろうとしたんですけど、失敗しちゃって送って貰いました」
可愛らしくテヘペロをしてみたら、思いっきり睨まれた。
「そんなのその辺にいる教師にでも聞きなさいよ! あんたねぇ、アルベルト様はリリアン様の婚約者なのよ! 送って貰うなんて烏滸がましいわ」
きつい口調で責める女子生徒の言葉に傷つきましたと言わんばかりに、涙を溜めて目を潤ませる。
「そんな……そんな言い方しなくても良いと思います。アル様とガリオン様は、善意で送ってくれたんです! 二人に失礼じゃないですか!」
キッと女子生徒を睨み、ポロリと涙を零すのも忘れない。
それを見た周りの男子生徒が、女子生徒に非難をし始めた。
「彼女は、編入したばかりなんだから近くの人に頼ってもしかたがないだろう」
「そうだぜ。ドレスや宝石やらでキャーキャー騒いでいるお前らよりも、コレットちゃんは一生懸命に馴染もうとしているのに。本当に人の粗探ししか出来ないなんてガッカリだぜ」
「コレットちゃんに謝れよ」
男子から謝れコールが上がり、私を非難した女子生徒は涙ぐんでいる。
「もう、そこまで言わないであげて! お互いちょっとすれ違っていたただけだもの」
男子を宥めると、優しいとちやほやされる。
この快感がたまらないのよね。
天然キャラ設定なんだから、鷹揚に受け流すところだ。
「お互い謝ろう」
手を差し出すと、バシッと叩き落され拒絶された。
「何で私が謝らなくちゃならないの? 本当のことを言っただけじゃない! 男に媚び売って気持ち悪い。アンタたちも気持ち悪い!」
女子生徒はヒステリックに叫びながら自分の席へと戻って行った。
コレットは、手をさすりながら悲しそうにその背中を見つめる。
実際悲しいわけじゃない。
「コレットちゃん、あんな性格ブスのことなんて気にしなくて良いんだから」
「そうそう、コレットちゃんの可愛さに嫉妬しているんだ」
男子がこうしてちやほやしてくれるので、傷つきましたアピールをしているだけである。
寂しそうにはにかむように笑みを作り、
「うん、大丈夫。私、負けないよ。頑張る」
と健気な自分を演出した。