コレット、魔法学園に入る
図書室の本を数冊借りて、部屋に籠って前世でやった召喚系乙女ゲームの名前と大まかなストーリーを箇条書きにして書き出した。
その中で『Holy Maiden~ドキドキ★メモリアル ~』の設定に一番近いことが分かった。
念の為、それとなくビリーにキャラの存在を確認したらビンゴだった。
記憶が曖昧な部分も多いので断言は出来ないが、推しキャラの俺様王子アルベルトや宰相の息子でツンデレ担当のスピネル、コナルド商会のワンコ属性ルーク、悪役令嬢に仕える双子の片割れで騎士のガリオン。
隠しキャラもいたはずだけど、そのルートを攻略する前に死んじゃったから誰なのか分からない。
魔王復活で世界の危機が再び訪れようとした時に、教会が聖女召喚で平凡な女子高生を呼び出し、魔法学校に入って勉強しながら力をつけて魔王をやっつけるってストーリーだった気がする。
「思い出そうにも、虫食い状態で思い出せないわ。攻略本もないし、神様ももう少し特典つけてくれたって良いのに!」
バンッと机を叩きイライラをぶつける。
フーッと溜息を一つ吐き、頭を切り替える。
この容姿と前世で培った乙女ゲーム攻略のテクを駆使すれば、ビリーのように攻略者を落とすのは容易いだろう。
「そうと決まれば、学園に入るまでに攻略者たちの情報を事前に入手しなくっちゃ!」
フンッとやる気に満ちたコレットは、目指せ逆ハーと叫びながら拳を天高く突き上げた。
ビリーに手配して貰った家庭教師から勉強を教わっている。
魔法は日本語だったので何とかなった。
九九が出来たので、悪くないと評価を貰った。
しかし、歴史とマナーがなかなか覚えられず躓いていた。
歴史を覚える意味が分からないし、マナーなんて最低限出来れば良いじゃないと言おうものなら、学園行きは無しだと言われてしまっては頑張るしかない。
文字がギッシリと詰まった本を渡されて、数ページ読んだだけで眠りこけたのは悪くないと思う。
山羊でも活字中毒者でもないのよ!
国の成り立ちなんか前世でも知らなかった。
おとぎ話程度だったし、授業では数ページで終わった部分よ。
それくらい重要度の低いことを勉強する方が、時間の無駄だと思うしつまらないわ。
マナーだって、愛想が良ければ多少出来なくても笑って済まされるのに本当に五月蠅く注意されてイライラする。
ビリーに頼んでクビにしてやろうかとも思ったけど、そもそもビリーが連れて来たのよね。
最低限のマナーと教養が身に着かないと学園には行かせて貰えないから我慢するしかない。
大量に出された宿題を眺めながら、コレットは嫌々ながら出された宿題をこなした。
攻略対象に会いたい一心で、コレットは頑張った。
元々外面だけは良かったので、マナーに関してはギリギリ及第点を貰うことが出来た。
肝心の歴史に関しては、実際に史実のあった場所を巡って勉強したいとビリーを唆して国中を観光して回る。
現地で美容に良いとされるものを買い漁ったり、高価なドレスや宝石をビリーに強請って買ったりと豪遊三昧をしていた。
お陰でピューレ家の家計は火の車の状態で、色んなところから家財を担保に借款したりしていた。
当の本人は、そんなことを気付くはずもなく湯水のごとくお金を使っている。
そんな中、コレットが一番気に入った街はアングロサクソン領だった。
平民が着ている服も前世に近いお洒落なワンピースだったり、手頃なアクセサリーが沢山あった。
魔道具も他の領と比べてかなり進んでいて、便利グッズまである。
「お父様、私この街が欲しいわ」
「コレット、流石にこの街をプレゼントすることは出来ないよ。王妃になれば、全部君の物になるよ」
「まあ、本当!? 素敵ね」
ビリーの言葉に、コレットは王妃になった自分を想像してうっとりとしている。
「私としては、コレットがずっと傍に居てくれるだけで幸せだよ」
砂糖を吐くような甘い言葉に、コレットの表情が一瞬硬くなる。
「私は、将来お父様を楽させてあげたいの。この国の第一王子様は、私と同じ年なんでしょう? 頑張って王妃の座を射止めてくるわ♡」
白々しいおべっかを並べ最後は本音を交えて喋るコレットに、ビリーは何の疑いもなくコレットを褒め称えている。
「婚約者とは不仲と聞くからな。アルベルト王子もコレットのように気立てが良い娘の方が良いに決まっている。頑張りなさい」
「もちろんよ」
その会話を切っ掛けに、アルベルトだけでなく彼の学友の話を聞いてもビリーは何の不信感も抱かなかった。
豪遊の旅は終わり、勉強もそこそこにエルブンガルド魔法学園の編入試験を受ける為にコレットは馬車一杯に荷物を詰めて王都へと旅立った。
編入試験はマナー・歴史・算数・魔法の四種類のテストが行われ、歴史は散々だったが魔法に関しては魔力が少ないながらも正確に魔法を発動したり、高位魔法が使えることを評価されギリギリ入学を認められた。
コレットが学園に入れたのは、入学式から半年も遅れてのことだった。