爆買いし過ぎて追われてます
奴隷の大量購入で、懐がとても寒いことになっております。
大手ともあって、奴隷の数も半端なかった。
でも、収穫はあった。
違法の他種族を売買しているのをバッチリ目撃し、買い付けたのだから言い逃れは出来ない。
もう一つ、急成長しているクランクシャフト商会も見ておきたいが、何やらつけられているようだ。
精霊達が、逐一報告をしてくれるので人通りの多い場所へ移動し宿を取った。
前金で一泊すると伝え、宿泊する部屋に戻り外の様子を伺うと如何にもと言った感じの男がウロウロしている。
金の眼が眩んだのか、私の鞄を盗むつもりか、はたまた私を誘拐して身代金を要求しようと言うのか。
その辺りは定かではないが、あまり良い状況とは言えないだろう。
フェディーラに守って貰おうとは思っていない。
自分の身は自分で守れると言いたいところではあるが、それをした場合の周囲の被害は人災並みになるだろう。
魔法でプチッとやってしまいかねない。
「あいつらを撒いて、一旦戻るわよ」
「どうやって戻るつもりですか?」
「変装」
来ている服や髪型、メイクで十分変わる。
高々数時間顔合わせた人間の顔を覚えるなんて困難だ。
「フェディーラは、前髪を降ろしてこのヘアピンを付ければ髪色が変わるから大分印象が違って見えるわよ」
私はフェディーラの頭を弄り、前髪を降ろして片方だけ耳にかける。
魔石が一つ付いたシンプルなヘアピンだが、身に着けると顔の認識阻害と髪色が変わるように仕込んだ変装用のペアピンだ。
念の為、服装もカッターシャツにチノパンとラフな格好をして貰った。
私もシンプルなワンピースに着替え、髪をハーフアップにしてヘアピンでプラチナブロンドを茶髪に変えた。
そのまま堂々と正面から出て馬車に乗り込み、その場を後にした。
追手は、私達の変装に全然気づかなかった。
城下のお忍び用に作ったアイテムが、意外なところで役に立つとは世の中何があるか分からないものである。
「あれは、やり過ぎたかしら? 完全に目をつけられたわね」
「あんな買い方をしたら、目をつけられても仕方がないと思います」
「クランクシャフト商会の方も見に行きたかったのだけど、情報が回ってたら厄介ね」
「出直した方が良いと思いますよ」
私自身が動かなくても、最悪の場合はフリックに行かせて代理で買い付けて貰えば良い。
奴隷がオブシディアン家に集中しているように見せかけるだけで十分だ。
落ちぶれたオブシディアン家が、何をしようとしているのか戦々恐々としながら見るのか、高みの見物で見るのかは度量の違いだろう。
実際は不正の理由を調べるためだけに買っただけなのだが、果たしてこれに気付く者はいるのだろうか。
「そろそろ戻りましょう。フリックが、しびれを切らして捜しに来そうだわ」
適当に馬車を走らせて追手を欺き、頃合いを見計らって屋敷に戻った。
総勢五十一名の奴隷が、玄関ホールで待機していた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま、フリック。留守中に何かあった?」
「この奴隷達を届けた男が、お嬢様に会いたがっておりましたがアポを取られてませんでしたので追い返しました」
「懸命な判断ね。フレデリック商会は、奴隷の不正取引を行っていたわ。他種族をありもしないでっち上げの種族名を付けて『人間』として売っていた。証拠もバッチリ押さえてあるから、いつでも警邏隊に引き渡せるわ」
「もう一つの方は、如何でしたか?」
そう聞かれ、私はウッと言葉に詰まった。
「……即金一括で払ってきたから目をつけられてしまって、撒くので精一杯だったの。視察どころじゃなくなったわ」
「大金貨を持ち歩く子供は、どこを探しても居ませんからね。お嬢様は、派手に動きすぎました。暫くは、屋敷内で大人しく事務仕事をこなして下さい。代わりに私が行ってまいります」
フリックの言葉に、子供の私が行くよりも大人の彼が行った方が色々な意味で安心だろう。
「その方が良さそうね。フリック、負担をかけるかもしれないけど任せるわ。買い占めるまではしなくても良いから、貴方の直感で買い付けてきて頂戴」
「畏まりました」
私は、それだけ言って買い付けた奴隷達に今後の生活について一通り説明をして、その日は解散となった。
翌日、気になる称号を持っていた少女に声を掛けた。
「何で魔王が奴隷になっているのか教えてくれるかしら?」
赤髪赤眼の少女に、私は笑みを浮かべながら問いかけた。