第2章─age26(3)
─舜side.age26
ハルがどうしようもなく好きだ。
初めて会ったのは高校の入学式。あまりしゃべる子ではなかったけど、打ち解けるとよく笑ってくれるようになった。バイトもたまたま一緒で、時々一緒に帰るようになった。
高2の文化祭の前日、ハルから告白された。
「好き」
たった一言言って、ハルは顔を赤らめた。
すぐにでも抱きしめたかったけど、ちょっとひねくれものの俺はわざと2日返事を待たせた。
「付き合おうか」
そう返事をしたとき、目を潤ませて口を押さえていた。口を押さえるのはハルの癖だ。まだあまり経験もない俺だったけど、思わずぎゅっと抱きしめた。
ハルは高校を卒業すると、どんどんキレイになっていった。化粧をして、髪を明るくして、パーマをかけ、肌も手入れして…。
俺と会うときはいつも俺の大好きな香りをつけてくる。一緒に買い物に行ったときに買ってあげたロクシタンのローズ。
抱きしめたときにふわっと漂う香りにたまらなくなる。
20を過ぎた頃から結婚したいね、ってハルは何度となく口にした。
俺だって、ハルと早く結婚したい気持ちがあったけど、はぐらかしていた。
20そこそこの男が養って守ってやれる自信なんて持てなかったんだよ。もっと強い男になってから、ハルを幸せにしてやりたかったんだ。
言えなかった。
俺の胸にぎゅっと顔を押しつけて、
「このままずっと一緒にいたい。」
って言われたら、俺は本能のままに抱きしめるしかなかったんだ。
弱いよな。
気がつけばハルに何も言えないイエスマンになっていた。
ハルがため息つく回数が増え、それを見ないように仕事ばかりしていた。
つまらない男だろ。
俺はこのままハルの手を離すしかないのか。
同窓会のあとから、ハルは妙に明るくなった。
吹っ切れたような、なにかに支えられてるような、そんな顔。
いつもはぎりぎりに駅へ向かうのに、10分余裕を持って向かっている。駅前でコーヒーを飲んで電車に乗るらしい。
仕事でマスクをするから、リップは塗らなかったのに、毎日グロスを塗っている。誰かいるのか?
おれは見ないふりをした。
あと2日すればハルは出ていく。
俺は結局、ハルを引き留める言葉を何ひとつ言えなかった。
「また会える?」
そう言うのが精一杯だった。
一生守っていくと誓ったのに、何やってんだおれは。
結婚式の写真に微笑むキレイなドレス姿のハルを見ながら、浴びるほど酒を飲んだ。