第2章─age26(2)
―レイside.age26
同窓会前日。成人式の写真を見ていた。
オレ若い。髪ちょっと長くてチャラいな。
オレの前に遠慮がちに写ってる高城は、来るのか?
会ったらオレはどうなってしまうのか?
財布にあったあの写真は、レシートとともにどこかにいってしまった。
ピピッ。メールが来た。シンからだ。
(明日19時に来いよ!お前に教えてやろう。明日高城来るぞ。)
!!無意識に顔がにやついた。
会ったの6年も前だぞ?オレキモくないか?
感情を押し殺して、ベッドに入った。
同窓会当日―。
19時ジャストに入った会場。オレはあいつの香りがどこかに漂ってないか無意識に鼻を利かせていた。
甘い花のようなふわっとした…。なんだっけ、バラのような…。
・・・いない。
なんとなく後ろの空席が気になった。隣にはあいつと仲の良い可奈が座ってる。
飲み干したビールジョッキをテーブルに置いたとき、ふわっと甘い香りがした。この香り…。
振り向くと、成人式より髪が長く大人っぽくなった高城がいた。
髪がふわふわして、ほんの少し背が高く見えたのはヒールのせいか。
オレはぱっと背を向けた。なぜか、気づかれるのが恥ずかしかった。
オレは何か抑えないといけない衝動を抱えている気がしていた。
「来た、ほら。レイ、オレ連絡先聞くから、絶対」
シンが不敵な笑みを浮かべてオレに呟いた。
「勝手にしろよ。」
シンに不機嫌オーラを丸出しにし、他の同級生の群れに入った。
一体どんな話してるんだよ。シンはいつものギャグ言いたいだけだよな。
「レイ!お前来月全部予定空けとけよ!」
不意にシンがオレを呼ぶ。シンと共に高城がオレを見る。
あのときみた薄いピンクの頬。26のわりに童顔だよな。
触りたくなった。無性に。
また身長をネタにして頭をポンポンした。
「また会おうな。絶対。」
高城は、小さくうなずいて少し目を反らした。なんとなく頬が赤くなった気がした。ちょっとがっつきすぎたか?
今度こそ、逃してはいけない気がした。
「シン、オレが高城にアポとるよ」
「…わかった。やるよ」
「狙ってんの?」
シンは彼女と別れたばかりだ。こいつは女を切らさない。
「俺はレイ様のためにゲットしてやったんだよぉ!」
はぐらかしたな、直感で分かった。でも、突っ込まなかった。
どうやって帰ったかその日は覚えていない。
2次会3次会に高城もいたのかいないのか。いろんな奴としゃべり、誰が誰だか覚えてないが、頭に触れた右手が妙にせつなくなった。
高城にメールを送るのに10日かかった。
なんて切り出そうか、シンに先越されてんじゃないか、なんて考えてたらあっという間に時間が過ぎた。出張も重なったしな。
─おはよう。元気か? 森谷
たった1行のメールを送信するのに耳が熱くなった。
10分後。
─おはよう!シンじゃなくて、森谷か!びっくりしたよ。この前ちゃんと帰ったの?
最後までいたのか!
─気がついたら家で寝てたよ(笑)今度いつ集まる?
─そうだねー。ちょっと今引っ越しとかでバタバタしてるから、落ち着いてからの方がいいかな。仕事の予定もあるしね。
引っ越し?
─引っ越すの?近く?
─同じ市内だから近いかな。旦那と別居することになっちゃって。
結婚してたのか。うまくいってないのか?つらいか?聞きたいことは山ほどあるけど、飲み込んだ。
─そうか。がんばれよ。
オレは携帯を伏せた。
あれから2日に一度、(おはよう)と一言送った。
あいつは看護師をしているらしい。
夜勤明けは少し遅れて返事が来た。
2通、3通、、少しずつ返信の回数も増えた。
シンからはくだらないギャグメールが届いてるらしい。いつもならガンガン攻めるのに、何もアクションはないようだ。オレの思い過ごしだったのか?
オレの気持ちはどこに、向かい始めているのか。
ただ、夏海に対する連絡頻度は、確実に高城より減っていた。
付き合って1年。
大学の後輩だった夏海は、中距離で仕事の都合もあり月に1度しか会えない。そろそろ結婚を匂わせてくるようになった。
結婚って、なんだ?オレには結婚願望はない。
毎日同じ顔を見て、相手とすり合わせながら生活するんだろ?考えただけでうんざりする。
あいつは幸せだったのか?泣いてないか?一人の部屋で寂しくないか?
気がついたらオレはあいつを水族館に誘っていた。