第2章─age26(1)
―ハルside.age26
「行ってくるね」
黒いヒールを履き、ほんの少し手首にシュッとローズの香水を振りかけた。
くるくると手首同士をこすりつけ、耳の後ろになじませる。
ふーーっと深呼吸して、香りに癒された。
「楽しんでこいよ。何時でもかまわないからな。」
舜が微笑んだ。
結婚3年目。結婚したくてたまらない私と、煮え切らない態度の舜。半ば強引に結婚を押しきった。始めは幸せ一杯だったけど、一緒に暮らすと優しいと思っていた舜はただのイエスマンだと感じてきた。
もう、限界かもしれない。子供がいないうちに離れた方が良くない?そんな話をした昨日。舜は嫌だとも言わなかった。
私はこの人で本当に良かったんだろうか。
望みすぎなのか。
わからない。
わからない。
ゆらゆら揺れるバスのなかで、ぐるぐると頭の中をかけめぐって、モヤモヤしてるとバスが到着した。
開始時間19時。
現在時間…19時半。あれ、過ぎてた!急ぎ足でホテルの会場に入った。
「あっ、来た来た。席取ってるよー!」
可奈が手を振る。
「とりあえず乾杯ね。ハイこれ持って!再会にかんぱーい!」
カクテル持たされ、忙しなく乾杯した。
「再会って可奈とは先週会ったよね?」
可奈がクスッと笑ったあと、
「どうだった?舜と話した?」
「あ、うん。たぶんこのまま別居になるかな」
「そっか。わかった。飲も飲も!」
同窓会は2回目。前回は成人式のあとだった。
前回よりも今回の方がたくさん来てるらしい。
「おっ高城さんじゃん!」
えーっと、誰だっけ。。
「ひどーい!忘れたって顔してる。俺オレ!ほらじっとみてよ」
あ、シン!
「シンだね!髭はえててわかんなかった(笑)」
あご髭生やしてるシンは、中学時代とは違いすごく背が高くて、ワイルドだった。あいかわらず面白い。笑いすぎてお腹がいたい。
「お前、結婚してんの?」シンが唐突に聞いてきた。
「あ、うん。そうだよ。」
「なんだよ〰️。聞いてないよ〰️!ま、いいや、今度飲みに行こう。もちろん人妻と二人じゃないよ。お前女集めといて。オレ男メンバー集めるから。プチ同窓会ってことで!」
シンと連絡先を交換した。
「レイ!お前来月全部予定空けとけよ!」
シンが叫んだ声の先には、すらっと背の高い彼がいた。
真っ白いTシャツにデニム姿の彼が近づいてきた。
とくんとくん。
6年前にも感じたあの感覚が、どんどん呼び起こされる。
「背伸びたか?いや、ちっせえな。」
むっ。デカイのそっちじゃん。
「大人だもん。伸びないよ!」
ポンポンとまた頭を触られ、Tシャツからふわっと香ったシャボンの香りに胸が大きくドクンと鳴った。
「またやろうな、プチ同窓会」
森谷レイが茶色がかった瞳をこちらに向けた。
「可奈と人数集めるね」
「また会おうな、絶対。」
そう言うとまっすぐに見つめられて、私は少し視線を外してしまった。
どうしたんだろ。気にしすぎよ。
でも、本当は分かっていた。
森谷は同窓会の広い会場で、常に私の近くにいたこと。
10日後、連絡が来たのはシンからではなく森谷レイからだった。