ドラゴンクエスト3
ゲームとの出会いは小学一年生の時だ。
当時、発売されたビッグタイトル「ドラゴンクエスト3」は発売当日に、販売店の前に長蛇の列ができ、社会現象にもなったほどだった。
だが、私はファミコンを持っていなかった。
ここがキーポイントになる。
私の家は決して裕福ではなかった。しかし、貧乏かと言われると、実際はそこまででもないようだった。ないようだった、と言うのは、両親は自営業だったため、定期的な収入があるわけではなく、日ごろから節制した生活をしていたことから、「自分の家はそこまでお金持ちではない」という認識が少なからず植え付けられていたからだ。
小学校に入学すると、私は学級委員長に選ばれた。そうすると、クラスの保護者会の会長みたいな役職にうちの親が自然と選ばれてしまったのである。
これが大きな誤算だった。
小学校の生活が進んでいくにつれ、周囲の友達と仲良くなり、話は日常生活に及んでいく。
「とうとう、ファミコン買ってもらったぜ」
近所のゆうくんという友達がそう言って、私たちを自宅に誘ってきた。こうなれば、私たちは学校から帰ると一目散にゆうくんの家に行く。
そこで出会ったのは冒頭で説明したドラゴンクエスト3だった。
ドラゴンクエストはRPGである。ゲームは一人用で、対戦などと言う機能はない。そのため、私たちはゆうくんがゲームをスタートしてからレーベの村に到達するまでずっとその画面を見ていたのである。
しかし、それでも面白かった。自分もゲームの中で戦っているような感覚。あーでもない、こーでもないと敵を倒す方法を議論し、ボスを倒せた時の爽快感は有無を言われぬものがあった。
この体験をしてしまうと、子どもたちは皆思うのである。
「俺もファミコンほしい。家で俺もこの興奮を味わいたい」
私も例に漏れず両親に「ファミコン買って」と頼んでみた。
「何で?」と聞く母。
「だってみんな持ってるんやもん」
ここで、あのすべての希望をなぎ払う恐ろしい言葉の登場である。
「よそはよそ。うちはうち!」
もちろん、これで諦めたわけではなかった。ことあるごとに「ファミコン買って」とお願いはした。しかし、それは叶えられずに時だけが過ぎていった。
あれは一学期末だっただろうか。授業参観が行われた。
もちろんうちの親も授業を見に訪れたのだが、ここで悲劇が起きる。
詳しい内容は忘れたのだが、授業の流れで最近流行しているファミコンについて、親御さんたちの意見を聞くということになった。
うちの親はクラスの保護者会長と言うこともあって、その場でとんでもない発言をしたのである。
「ファミコンが流行っているようですが、うちではファミコンは絶対に買いません!」
父はそう言った。
私にとっては死刑宣告のようなものである。
「うちには一生、ファミコンがやってこない」という現実をクラスメートの前でぶつけられたのだから。
現実とは残酷なもので、買ってもらえない私とは逆に、クラスメートたちは次々とファミコンを入手し始める。クラスの男子の話題はほとんどがファミコンの攻略話一色となり、私はゆうくんの家に遊びに行った時に眺めて得た情報だけで、何とか話題に乗るだけだった。
私の悩みはどんどん大きくなっていった。
「何故、うちだけ買ってもらえないのだろう。うちはそれほど貧乏なのだろうか」
小学一年ながら、悩みの大きくなった私は耐えきれなくなり、両親に泣きながら告白した。
「ねえ、何で?僕だけファミコン買ってもらえないの?うちはそんなに貧乏なの?」
あんなに泣きながら訴えたのは人生で二度目だった。(一度目は幼稚園の時に買ってもらった自転車の色が赤色で、それが女みたいだと気に入らなくて号泣した)
これは両親にとってかなり堪えたらしい。ファミコン買ってもらえない→うちは貧乏→うちの子はかわいそうな子、ということにもなりかねなかったからだろう。
ここで、親父が驚きの決断を下す。
私の誕生日だったか、クリスマスだったか、今はもうはっきり覚えてはいないが、ある日私の枕元には四角い箱が置いてあった。
「こんなに大きいものはお願いした覚えがない」と感じながらも包みを開けると、そこにはずっと待ち続け、憧れていたファミコンがあった。
泣いた。本当に死ぬほど泣いた。
居間に行くと、父と母が笑顔で待っていた。
私は「パパ、ママ、ありがとう」と何度もお礼を言いながら泣いた。
もちろんソフトはドラゴンクエスト3。
母に聞いたところによると、父は授業参観でああ言ってしまった手前、なかなか買ってやろうとは言い出しづらかったらしい。しかし、真剣に悩む私の姿を見て、父はとうとうファミコンを買い与える決断を下してくれたのだった。
これが私とファミコンとの出会いである。
後日談になるが、ファミコンが我が家にやってきた当日、父は「ちょっとやってみよう」と私たち兄弟が寝静まってからドラゴンクエスト3をプレイした。
そこから一番、ドラクエに時間を費やしたのは、ほかでもない父である。
父は大人である特権を生かして、私たちが寝た後で死ぬほどレベルを上げ、ストーリーを進め、ついには我が家で一番最初にクリアしてしまった。
友人から「へえ、買ってもらったんや。良かったのう。でもお父さん良く許してくれたな」と言われる度に「今、一番ドラクエにハマってるのは父ちゃんやで」と答えようとしたものの、さすがにそれは憚られたのだった。
次回予告
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次回 アナザーマインド
ご期待ください。