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田原坂

明治10年、熊本県熊本市田原坂。西南戦争最大の激戦地に、選りすぐりの剣豪を集めた警察抜刀隊として、樋夏儀一は戦地に立っていた。


「武士の時代もここらへんで終いかなあ」


飛び交う銃弾から身を隠しもせず、火薬渦巻く戦地で儀一は独りごちていた。

儀一より10ほど年下に見える会津出身だという若い警官が反論した。


「終わりません! 我々抜刀隊がいる限り刀の時代は終わりません!」


「そうは言ってもやな、これだけドカンドカン火薬使われたら、日本刀一振りでどないもならんぞこれは」


轟音が先か爆炎が先か。

儀一と会津の青年の間に大砲の弾が突き刺さった。


「うお! びっくりした! 大丈夫か少ね……」


会津の青年はもはや肉塊ですらなかった。刀の鞘だけを残してこの世から消えていた。鞘は折れていた。


「……わはははは! やっぱり俺らの時代ら終わりってことかいのぉ!」


閃光。

それは銃弾よりも速く動いていた。

儀一は敵のど真ん中に立ち、抜刀とともに瞬時に四人の首を斬った。


「う、撃て撃てえ!!」


西郷軍指揮官が狼狽しながら儀一に一斉掃射を命じた。


「止まって見えらぁ」


ライフルを構えた六人の敵兵をさらに加速した速度で一気に斬りふせる。

敵兵が地面に倒れる前に居合の構えを取り、そのまま左足で地面を蹴り飛ばし、まるで地面が短いかのように指揮官の眼前まで間合いを詰め、居合斬りで文字通り吹き飛ばした。

血の雨が儀一やその周りに降り注ぐ


「な、なんだあの男は! 強すぎる!」


「あ、あいつは確か……し、不死の儀一!」


「な、なに〜!!」


幕末の暗殺が横行する京都で、尊王でも攘夷でも佐幕でもなく、ただひたすらに強い相手との戦いを繰り広げ、時には新撰組に囲まれながらも、負けることも死ぬこともなかった不死身の男。

悪魔そのもののような男が血を浴びてそこにいた。


「会津の仇! 会津の仇!」


「撃てえ〜! 殺せ〜!」


「いやだー!死にたくない! だれかー!おかあちゃんー!」


まるで地獄の釜の底のような混沌が熊本の1つの坂で繰り広げられている。

そこに最も似合う男が一人笑っていた。


「はははは!! 地獄じゃ地獄! 俺らは新時代が10年も過ぎても、結局はあの頃の京都となんも変わらん人殺しのエテ公のまんまじゃ! 会津の少年! ここまで来たら俺は死ぬまで刀振るったわい!」


そして轟音がまたひとつ、儀一を包んだ。

爆煙があたりをつつむ。音と煙が少しずつ消えて行く。

そして、儀一の姿は田原坂から消え去った。

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