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2話 目覚め

とりあえず書きたいように書いていきますとも



暗く深い闇の底

まるで映写機からスクリーンに映し出されるかのように映る自分の過去…いや、過去と呼ぶにも値しない小さな記憶の残滓


1枚1枚が明確ないともなく写り、消えていく

私は…それをただなんの感情も持たずに見ていた


「お前の望むものはこの世界にあったか」


唐突に自分の体“だったはず”の存在が喋る


「お前の望む世界が…ここにはあったのか」


確信とも問いかけとも言い難いニュアンスの言葉はあまりにも曖昧で

そもそもこちらから意思を持って話せないことに私は苛立ちを感じた


(…あの世界に希望(のぞみ)はなかった…)


「それが答えか」


(そうだ)


思念ならば意思の疎通ができたようできちんと会話が成立することに安堵すると同時に自分は今死んでいるのではないかと疑問に思う


(私は…勇者に…倒されたのではないのか?)


「…」


(おい、返事をしろ)


(おい!!)


再び何も喋らなくなった自分の体に呼びかける

次第に意識と呼ぶべきなのか…感覚が薄れていく


(……あぁ…私は…これを知っている)


これは…死の間際の…


うっすらと輪郭だけが見える…その自分によく似た姿の“誰か”は

霧の中に溶けるように最後の意識とともに溶けて消えていった










「……っ………ここ…は…」


爽やかな草の香りと土の匂いを運ぶ風を身に受けながらまどろむ意識を覚醒させんと目を開く


自分の髪が強風になびき宙を舞うのを感じる

見覚えのある自分の銀の髪色…それよりも白く淡い髪に少々首をかしげてしまう


自分の髪色はこんなにも色が抜けていただろうか…

たしかに部分的に色の抜け落ちた箇所はあったものの全体的に見れば銀…いや、灰色に近いものだった


「……なっ!!!!?」


自分の手を見れば視界に映るのは見慣れた魔族としての手ではなく人間のそれ

思わず全身をくまなく触るがどんなブレスも魔法も寄せ付けぬ鱗のような皮膚もなければ赤黒く不気味な両翼もない

1番の特徴であった額の魔石と角は触った限り見つからなかった


人形に変化した覚えはない

人化を解こうと意識を集中させるも意味はなかった

するとこれは…


「転生したというのか……?私が…人間に!?」


「そのとーりだよぉ!」


「っ!!誰だ貴様!敵か!」


「うひゃっ!怖いからそんな顔で睨まないでよー、うぇぇん」


突然後ろから声をかけられたら驚くに決まっているだろうが!!!!

…しかし先程のは少し大声を出しすぎた、私も存外この状態に混乱しているらしいな


声をかけてきたのは手のひら大の小さな子供姿の生き物

もといた世界ではフェアリと呼ばれる種だったが…

そうなってくると余計に申し訳なさが募る


「…すまない、悪かった…私もこの状況がうまく理解出来ていなくてな…だからその…泣くな…」


「…ぐすっ…うん、神様からは怖いまおー様だって聞いたけど全然そんなことないね!僕も怖がっちゃってごめんなさい」


「神…?」


なんだと、ここには神なんてものがいるのか!!?


「うん」


肯定が早い!ミスポロ(思念で意思疎通するのが得意な妖精種)なのか!?


「まおー様すごくわかりやすいもん」


「っ!!」


そんなにわかりやすくなっているのか…私は…


少しのショックとあきらめを抱えてフェアリと思わしき少年(少女?)を見る


ゆらりゆらりと羽ばたく蝶のような半透明の羽以外は子供を手のひらサイズに縮小させたような種族だが…

男と女の区別が難しかったりもする


「どうしたの?まおー様」


「魔王じゃない…今は…」


勇者に敗れ見知らぬ場所に転生していくら何でも魔王というのはおかしい

それに…あくまであれは名称に過ぎず、余り好きにはなれなかった


「じゃあなんて呼べばいい?」


「…レーヴァテイン…」


かつて力を認めた者だけに呼ぶことを許した名

自分の誇りでもある

魔族は名に力を持つゆえ本来は隠すものだが

怖がらせてしまった詫びにと思い私は自分の名を教えることにした


ヒューマーに転生した後だからなのだろうか…

そういった事に対して強い嫌悪を浮かべることもなく口から自分の名が紡がれる


不思議な感覚だ、あれだけ心底嫌だった筈なのだが…

名を教えることに不安はなかった


「レーヴァテイン様!」


「様付けもいらな…」


「レーヴァテイン様!これから会って頂きたい方がいるんです!」


「…」


意外に話聞かないなこいつ…


そんなことを思いながら、フェアリの後をついて草原を歩く


仰ぎみる空は思ったより優しい色をしていた





***********






「着きました!ここです!レーヴァテイン様」


「これは…?神殿跡…か?」


「神殿跡ではありません!神殿です!」


「いやどう見ても神殿跡…」


「し!ん!で!ん!です!!」


どうしてもここが神殿であることを認めさせたいらしい

確かにこの建物…というかこの残骸のような場所は神殿だったのだろう

だが、老朽化どころの話ではない

入口は半分以上土に埋もれて風化のせいかボロボロになっており壁らしき場所には蔦が張っていた

一見するとそこが神殿であるというのもわかりにくい


「さぁさぁここに入ってくださいまおー様!じゃなかったレーヴァテイン様!」


「わざとかそれは…」


「わ、わざとじゃありませんよ!?本当ですからね!」


「そういうことにしておく」


蔦をのけたその先は人が一人入れるくらいの隙間しか空いておらずその隙間すら長身の私にはなかなか入りづらいものだった

出る時もここを通らなければならないのだろうか…そうなると少し憂鬱に感じる

そうして鼻歌を歌いながら進み始めたフェアリの後を追い先に進んでいく


「ここです!ここ!ここ!」


クルクルと自分の周りを回る姿は愛らしいが、この部屋らしい場所の異質な空気によりプラスマイナス0といったところか


そこにあったのは台座

ただの台座ではない

錆び付いた金属部分は何かを置く場所だったのだろうか

台座にこびりついているのが気のせいでなければ酸化し変色した血液だ

こんないわく付きと言わんばかりの場所になんの用があるというのか

自分はフェアリを一睨みするも

予想どうりフェアリは恐怖で泣く寸前になってしまったため諦めて台座の近くに向かう


そうだ、そろそろこのフェアリの名前を聞いておかないとな


「あのう…そのう…」


「なんだ」


「えっと、ここで神様とお話してほしいの…お願い!」


それが俺にとってメリットのある話なのかどうか…そもそも神なんかと話せるのかどうか

そう聞く前にフェアリは泣きそうな顔で懇願する


「お願い…神様とお話して…ください…もう神様はみんなに声がかけられなくなってしまったから…」


ポロポロと涙を流しながらフェアリは必死に訴える

神というのは信仰によって力が変わると聞いていた

この世界でどうなのかは知らないが


「信仰が薄くなったのか」


「ちがうの!ちがうの…そうじゃなくて…神様…いま疲れてて…」


どう言葉にしたらいいのか分からないと言った様子で首を振るフェアリ


神が疲れる?

神といえば絶対的な力を持つ世界の指針ではないのか

そういえば昔いた世界にも神はいないわけじゃなかったな

こちらのように干渉してくるほどの存在でもなかったからかあまり気にしたことは無かったが

…実際にあったことは無いがアイツだったら会えそうな気がする

まぁ運良く死にかけで帰ってくるのがオチだろうがな

おっと話が逸れた

神が疲れるということは同等レベルの何かがひっきりなしにやってくるということなのでは?

そんなこと天変地異が起こらない限りありえない話だが…


「うぅ…今レーヴァテイン様が思っていることが僕の言いたかったことと同じだと思う…」


「天変地異でも起こったのか」


「そこじゃないです…」


…何故かフェアリが呆れたため息をつく音が聞こえる


「僕達の世界には魔王はいません

その代わりに、この世界にある潤沢なエネルギーを狙ってほかの世界から神が侵攻してくることがあるのです

この世界の神様は今の今まで頑張ってきました

この世界を守ろうと…」


「…そうなのか」


この世界は思っていた以上に危機的状況なのではないのだろうか…

それにしても今の今までとはどういう意味だろうか

私が来てから何が変わった…ということなのだろうか…


「でも、協力を仰いでいた世界の神が貴方を連れてきたんだ!

この子を星の助けにするといいって!」


途中から口調が元通りになる

私を見るその目はいつぞや見た勇者たちを見る民衆の目によく似ていた

歓喜、期待、畏怖

畏怖はされど歓喜も期待の眼差しもあまり受けたことがなかった私はその純粋な目にたじろいでしまった


「レーヴァテイン様はみんなのヒーローです!」


「馬鹿馬鹿しい…」


「レーヴァテイン様…」


素直に喜べない自分がこの時ばかりは少し恨めしく思えた


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