王の城へ!?
スズナの人間離れした脚力で魔王城まで戻ってきた琴子は、再び大広間の椅子の上にチョコンと座った。
(ベルゼブブの野郎ちょっと焦ってたな……。何かあったか……?)
普段常に冷静なベルゼブブの変わりように異変を感じた魔王は、何が起こったのかと思う。
現在、大広間には先程と変わらない面子、ガイム、ムガイ、ボルグ、ベルゼブブとスズナに加えて、アビスがいた。
「これは、さっきうちに届いた手紙だよ~、読んでみてぇ、琴子様」
「うむ……」
琴子が手紙を開くと、そこには見たことのない文字が、5行ほどに渡って書かれていた。
(ううむ……。これは読めないぞ……)
よく考えて見ればここは異世界。言語が通じた事で忘れていたが、文字が違う可能性だってある。
(……こいつぁ……、成る程、こりゃベルゼブブも焦る訳だ。)
どうやら手紙を読んだらしい魔王が驚きの声を上げた。
「なんと書いてあるのだ?これは?」
(ああ?そうか読めねぇのか……。ここにはな、この国の王さんが、城にこいと俺に命令出したって書いてある。)
「ふむむ……。それの何が焦る事なのだ。ちゃちゃっと行ってすませればいいじゃないか」
(ばっか!!王様が居る城なんて俺ら「魔族」の敵の本拠地だぜ!?何が起こるかわからんだろが!!勇者が居る可能性だってある!)
「……」
(しかもここには「魔王と大幹部2名、幹部1人」が来る事、って書いてある。……俺の今の姿は勇者のせいだからな!俺が弱っている内に殺しちまおうって算段かも知れねぇ!)
「ぬおお!!!それはまずい!!」
(やっと解ったか!)
「さて……琴子様が手紙を読み終わられましたので……。では、誰が行きますか?王の城に」
ベルゼブブが大広間の中にいる「幹部」、「大幹部」達に言う。
「それはつまり「誰がもしもの場合、王の軍勢から琴子様守るか」ってことだろうがよ!んなら俺が行くぜ!戦闘になるなら願ってもねぇ!俺も最近体が鈍って来てた所だ、暴れさせてもらうぜ!」
その言葉に真っ先に反応したのはガイムだった。
パシッ!と自分の掌に拳をぶつけ、にやっと笑う。
「取り敢えず僕はガイムを連れていくのには賛成です。……この中で乱戦に1番強いのは彼でしょうから……」
その言葉にムガイが賛成の意を示す。
「ではもう1人は……」
「私が行こう」
「そう言うと思いましたのじゃ」
ボルグの言葉に、ベルゼブブが急かさずそう言った。
「まぁ、ベルゼブブ様なら戦闘力も問題無いですし…、いざという時には今の魔王様を「運ぶ」こともできます」
「じゃあ、これで決まりだな!……んじゃああとは幹部からか」
「今ここに居るのはスズナとアビス……。呼べば他も居ますが……」
「できるだけ琴子様も知った顔が良いんじゃねーの?」
「……なんだガイム、そんな気配りができるのか。普段からしてくれ」
「俺は何時だってこうだぜ!」
「本気で言ってるお前が恐ろしいよ……」
「では……スズナ、頼めますか?」
ベルゼブブの言葉に、スズナが頷く。
「このスズナ!琴子様の盾になる覚悟で頑張りますよ!」
「よし、それでは……どうやら、今日の夜に来いと言う話のようですね。まだここに書いてある時間まで5時間はあります。各人それまでに準備を整えておいて下さい」
「「応!!」」
「ねぇ……ラーヴァ」
(あ?なんだ?)
琴子は大広間から出て、寝室のベッドにバフッ!と倒れこんだ。
「そんなにその王様は強いのか?大幹部達は1人で1つの国を倒せてしまうほど強いんだろ?」
(ああ……王さま自体は強くねーよ。その回りを固めてる勇者の野郎たちがつえーんだ)
魔王が面白く無さそうに言う。それはそうだ。魔王はその勇者達に負けたのだから。
(流石に大幹部クラスのやつはそんなに居ねーが、幹部クラスはあなどれーね程いる。50人だ。こっちの2倍以上だな)
「スズナさんみたいなのが50人も居るのか……」
(ま、あとはあいつらは協力して戦ってた。1人の敵に少なくとも三人以上で当たる。……戦術も向こうの方が上手だったな。あと士気も高かった。勇者が最前線で戦ってたからか……。敗因上げると切りねぇな!やめだやめだ!)
魔王はだんだん勇者達を誉めていることに気付いたのか、ブンブンと無い手を振って話を止めた。
「むぅ……勇者とラーヴァは……まるで友達の用だな……」
(あ!?なんで俺があんなやつと……)
「だって……さっき勇者の話をしてたとき、ラーヴァは楽しそうで……」
(あ!?おい待てお前!?寝るの!?ここで!?まてまて!!)
琴子は今までの疲れが出たのか、ベッドに倒れこんだまま、眠ってしまった。
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