別動隊、琴子隊
「常に三対一を心がけろ!!北の魔王の魔物を侮るなよ!!」
王国の騎士が激を飛ばす。
北の魔王との戦闘が始まって数十分。既に戦場となった荒野には、魔物の、そして人の死骸が大量に横たわっていた。
「ゴルァ!!」
「ぐあっ!」
そんな大量の血を吸った荒野の地面に、一人の若い冒険者が魔物に押し倒された。
「ギャガァッ!!」
「く……」
魔物が手に持っていた不細工な刃を振りかざしたのを見て、冒険者は死を覚悟し、目を閉じる。
「………」
だが、攻撃が来ない。
「いつまで目を閉じているつもりだ……。死ぬぞ」
「へ……?」
かわりにやって来たのは、低い男の声。
冒険者が目を開け顔を上げると、そこには体の要所だけを守った薄い鎧を着た、顔の下半分をすっぽりと覆う鋭い牙の形を型どったマスクを着けた男が立っていた。
「あまりぽーっとつっ立ってんなよ。今度こそ死ぬぞ」
男は吐き捨てるようにそう言うと、手に持っていた短剣を冒険者に渡し、走り去って行った。
「……あの人は……」
その男の顔は、若い冒険者も知った顔だった。
「「王国の剣」第五席……、「ガリア」……」
戦場から発せられた地鳴りが、琴子の足元に届き、琴子の体を少し揺らす。
琴子は現在、戦場となった荒野を迂回するようにして、近くの森の中を駆け抜けていた。
同じく、琴子と共に走っているのは三人。
琴子に移動能力向上の魔法をかけているベルゼブブ。
ニラニウス学園からクルスを取り戻すためにやって来たミギワ。
そしてガイム。
「俺だけ何か説明短くね?」
「何がですか?バカな事を言わないでください。私達は重要な任務を遂行中なのですよ。全く……あなたはバカな上空気も読めないのですね……」
「え?何?何で俺そこまで罵倒されてんの?」
「……琴子ちゃん?何なの?この方達……?」
走りながら罵り合うベルゼブブとガイムを見て、少し引き気味のミギワが琴子に尋ねる。
「……友達………?」
「お……おお、そうか……。………琴子の事がよくわからなくなってきたな……」
ミギワは琴子の回答を聞きくと、さらに眉をひそめ、ぶつぶつと呟いた。
なぜ、琴子、ミギワ、ベルゼブブ、ガイムが共に行動しているのか。
彼らは、城の最上階に囚われていると思われているクルスを助けるために編成された、少数精鋭の部隊である。
フィンセと北の魔王軍の本隊が荒野で戦いを続けている内に、手薄になった城に突入するため、荒野を迂回している最中だ。
(……しかし何故ここに琴子様が………。本隊が戦っている戦場よりは私達が直ぐに守れる場所にいる方が安全かも知れませんが……。決して安全とは言い切れない。やはり琴子様はフィンセに置いてくるのが良かったのでは……)
ベルゼブブは走りながら考える。
普通、地面に大量の蔦や苔が生えていている環境で、何かを考えながら。それも超スピードで移動すれば、バランスを崩して転倒してしまいそうな物だが、ベルゼブブは驚異的なバランス力、さらに周囲の環境を認識する能力で、それを回避していた。
だが、転倒するのは防いでいたが、それでもやはり周りへの警戒が少し薄れていたのかも知れない。
空中から、巨大な岩石のような肉体を持った魔物が、琴子達の真上に落ちてきていた。
「………!おい!ベルゼブブ!!上を見ろ!!」
最初に気付いたのは、先程罵倒されて少し傷付き、何だかんだ無心で走っていたガイムだった。
「……!!くっ!!」
その声を聞いたベルゼブブは、慌てて上を見る。
だが、もう遅い。
巨大な岩石の様な物は、ベルゼブブの目と鼻の先まで来ていた。
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