いざ!町へ!
「ほっほー!!まさかそんな事になっていたとはー!!」
ベルゼブブから事の経緯を聞いたスズナは、一時口をぽっかりと開けて驚いていたものの、数分後にはなにか納得したように、こくこくと頷いていた。
「それで、琴子様は全くこの世界の事を知らないから、とりあえずここの町を案内してこいと!!そういうことですね!!」
「ああ、その通りだ。……くれぐれも、よろしく頼みますよ」
「はい!了解です!!」
ビシッ!とスズナはベルゼブブに敬礼すると、グリン!とこちらに顔を向けて、
「よーし!!じゃあ行こうか琴子様!!」
そう言うとスズナは琴子の左手を掴んで、ひょい、と琴子をおんぶした。
「それじゃあいってきまーす!!」
そのままスズナは琴子を背負ったまま、扉をくぐり抜け、大広間から出ていった。
「さーて琴子さま!慣れない世界に来たり、いきなり魔王になったり、色々不安でしょうが、頑張ってイキマショー!!」
おー、とスズナが左手を掲げる。
「お、おおー」
それにならって琴子はスズナの背中で、左手を上げた。
(そういや……確かにお前、案外冷静だよな。死んだって聞かされても泣かないし、魔王になったって言われても、特に何も言わず受け入れてんじゃねーか)
魔王が思い出したように言った。
「確かに死んだのはショックだったし、急に魔王になったのだって、嫌じゃない訳じゃないけど……、それでも、命を助けて貰えたのは事実だし……そんなに魔王も、今のところは直ぐに辞めたいほどじゃない。」
(はっ!たまたまそちらの事情ガン無視で復活させられたのを、助けて貰ったか……。お前も中々お人好しじゃねーの!)
かかかっ!と魔王は楽しそうに笑った。
「さて琴子さま!もうそろそろ町に出ますよ!」
スズナがそう言ったので前を見てみると、目の前にはキレイな木造の扉があった。周りの壁が石造りなため、木製の扉がかなり孤立している。
その扉をガチャ、とスズナが開けると、そこは、大量の武器や防具、なにか透明な入れ物に入った液体などがおいてある店だった。壁や床は全て木造であり、新品の木の良い香りがする。
「よっアビス!売り上げはどーお?」
「順調よぉー……。でも、座ってるだけなんて退屈で寝ちゃいそうだわぁー」
スズナが、店内のカウンターに座っていた、眠たそうに目を擦っている、ピンク色の髪の毛をした女に話しかけた。
(こいつはアビスって名前の女だ。スズナと同じ「幹部」だな。)
体の中で魔王がない指を眠そうな女……アビスに向けて指した。
「おやぁー?そちらのお嬢さんはぁ?」
「そうだアビス!なんとこのちっちゃくて可愛い娘は……魔王様だ!!」
「はぁ……って、からかうのもいい加減にしなさいよぉスズナ……。きっちり魔力見てから物いって……はぁ!?」
ガタン!!とアビスは座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、信じられないという顔で、琴子の顔を眺めていた。
「ふっふっふー!その反応を待っていたのだよぉ!!なぁ琴子様!!」
スズナは胸を張っているが、琴子は正直な所「ぇえ!?何それ!!そんなのあったけ!?」と焦りまくっていた。
「ははぁ……眠気覚めちゃったよぉ。……すごいねぇ、中々大変な人生送ってるねぇ」
そう言うとアビスは、スズナに背負われている琴子に近づいて、よしよしと言う風に頭を撫でた。
「いやー、かわえかわえ。かわえーの、いやー魔王様って解ってるのに、なんかゆったりしてしまうわぁ。」
アビスはニコニコしながらそう言って、元の座っていた場所に戻り、再びうとうとし始めた。
「さて琴子様、それでは外に出ましょうか!!」
そう言ってスズナは大量の剣やハンマー、斧が陳列されているレーンを抜け、外にでた。
晴天だった。
太陽の暑く、眩しい光が、琴子の肌に当たる。
つい先程までコンビニの窓から射していた同じ物を浴びていたはずなのに、なぜかとても懐かしく感じた。
「見てください!琴子様!これが今の魔王様のお城です!」
そう言われ上を見ると、そこには木造の板に、「何でも屋魔王城」とでかでかと、書かれていた。
(……これが、勇者が俺に課したもう1つの罰だ。この町の奴等に、善行しろだってよ!そのためにこんな「何でも屋」なんて物建てやがったんだ!)
成る程、すぐわかると言っていたのは、これを見せてから説明するためだったのか……。と琴子は、自分の中で恥ずかしそうに説明する魔王の声を聞いて、そう思った。
そしてこの魔王城が立てられている場所は、この町の中でも1番人通りが多い、大通りだった。
目の前には、歩きながら食べ物を売っているものや、道端に露店を開き、何か金属の小さなブローチのような物を売っている人がいた。
そして大通りを歩いているのは決して「人」だけではない。
体が長い体毛で覆われた「獣人」、くりっとした大きな目をした小さな人間「小人」、金髪で背中に透明な羽が生えた「妖精」、尖った耳をもった銀髪の「エルフ」……。
そんな地球では映画の中でしか見ることのできない光景に、琴子は圧倒された。
……そして少しだけ、地球と全く違った風景を見せたこの町に住むことを、楽しみになっていた。