北の魔王、ベルカッチャ-2
「それでだな!この城は先代の時に異界からやって来た人間に作ってもらったらしくてな!無駄に物を作るのに時間をかける奴だったらしくて……」
「……外が明るい……朝になったんか……」
クルスが睡魔に負けかけて下げていた顔を上げると、部屋が少し明るくなっていた。明かりは灯っていない、ということは、外が明るくなってきたと言うことだ。
「ぬ……もうこんな時間か……。ついつい話過ぎてしまったようだ。……どれ、長々と話を聞いてくれた礼だ。一つ、何でも質問に答えてやろう」
「質問……」
クルスは後に、この時自分の睡眠欲に負けていなければ、もっとマシな質問が出来たのにと後悔した。
「なんで……ベルカッチャは……こんなに戦いが好きなんだ……?何で戦いを止めない…?」
「ふむ……。ただ単純に好きと言うのも有るがな。私にとって戦闘は一番の娯楽だ」
「……は?」
「戦闘が始まる前の独特の緊張感……そして、力がぶつかりあい、躍動する筋肉、精神。そして敗者の命の灯火が消えるその瞬間まで……。全てが全て、最高の娯楽だ。」
「意味がわからん……」
クルスは吐き捨てる様に言ったが、そんな言葉に構わず、ベルカッチャは続ける。
「そして必ず同じ「戦闘」は存在しない……。戦術や戦う者が同じでも、一つ一つの戦闘には必ず違いが起こる。だから飽きない!永遠に楽しめる」
「……そういう戦闘を娯楽として考えてる奴は、安全な所から楽しんでるのが普通だと思っていたんだがな…」
「……まぁ、そういう奴もいる。自分の部下を戦わせて、それを見て楽しむ奴とかな。……しかし、例えば、幼い頃に王国の騎士の武勇伝を聞いて、憧れた少年は騎士になろうと思うだろうな。その武勇伝が、命の危険を背負った事で生まれたものだと知っても。」
「…なにが…言いたいんだ……?」
「ま、私はそういう命をかけて戦う者達に憧れたのさ。だから私もそれになった。簡単な事だ。戦闘が楽しかったのもあるしな」
「……」
「最近は命の危険を感じる戦闘が無いのが残念だが……」
そこまでベルカッチャが言った時、部屋の外に控えていた赤い肌の鬼(赤鬼)が、室内に入ってきてベルカッチャに何か耳打ちした。
「……なに、成る程……!お主は愛されておるな、クルス!……しかし相変わらず行動が速いなぁ勇者殿は!!くく……ははは!!魔物ども全員に伝えろ!大規模戦闘だ!!」
「……こいつ……」
クルスは眠気によって消え行く意識の中で、かすかに見た。ベルカッチャの顔が醜く歪むのを。
それはベルカッチャの笑顔なのだが……。クルスには、目の前にいた少女が、確かに魔王なのだと言うことを思い出させた。
(くそ……少女だと思ってちっと心を許した俺がバカだったか……)
そこまで思った時、完全にクルスの意識は途絶えた……。
「……もう先方隊は出発したと……」
「ああ、拠点設営や物資を置くだけだけどね。本隊は明日出発だ。」
ムガイと琴子、ギョウゴ、スパーキーはフィンセに到着してから、町の入り口に待ち構えていたスズトにそのまま城のスズトの部屋まで無理矢理連れてこられ、今回の戦いの説明を受けていた。
「北の魔王との戦いは総力戦だ。出し惜しみしてちゃあ確実に殺られる」
「……なぁ、さっきから言ってるが、北の魔王の幹部ってのははそんなにヤバイんか?」
部屋のベッドに寝転がりながら聞いていたスパーキーがスズトに尋ねる。
「うーん。そうだね、まずほとんど初対面の人の部屋のベッドに寝転がっている所を突っ込ませてもらいたいんだけど……。彼ら北の魔王の部下達は、極上の戦いを求めて魔王の下についた人達なんだ。だからそこでのしあがり、大幹部にまでになった者達は、同じ魔王の大幹部クラスと比べても、頭ひとつ飛び抜けてる」
「おーん…、で、具体的な強さはどんな物なんだ?」
「攻撃力では「王国の剣」の七番手が五十人居て同格……」
「お、おーん……中々やるじゃねぇのよ…」
(……ねぇ、ラーヴァ、前から気になってたんだけど、「王国の剣」とか「王国の盾」って最近よく聞くけど……何なの?)
琴子は心の中でラーヴァに聞く。
(王国の剣だとか盾っつーのは、国に登録された騎士の中で最高の攻撃力と防御力を持った騎士に与えられる称号だ。剣と盾にそれぞれ十人ずつ、序列を付けられて登録されてる)
「そして、今回の戦いは、北の魔王の討伐とクルス君の奪還の二つの目的がある。出来ればどちらも成功させたい……。その為、念には念を入れて、学園からも少なくとも援軍を頼んだ。」
「俺と……ミギワって事か。おいおい、本当にすくねーな」
「……まぁ、という事で、今回の戦いで、君達にどんな役割を働いて欲しいか、これから駆け足で説明しよう!」
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