そして戦場へ
琴子が目を覚まし、朝食を済ませてから教室に行くと、アオメが待っていた。
「三井、今日の早朝にフィンセから学園に手紙が届いた。中身は見ていないが……。この手紙を持ってきたやつはなるべく速く見てほしいと言っていたらしいから、速めに見とくようにな」
「わかりました……」
そう言ってアオメは琴子に白い封筒のような物を渡すと、教室から少し早足で出ていった。
ラーヴァはその様子を見て、もうクルスが居なくなったのが学園に伝わったのだろうと直感した。
(スズトの野郎行動が速すぎだ……。俺に休憩させる気が一切ないな……)
ラーヴァが小声でなにか言ったが、琴子には聞こえなかった。
琴子は封筒を開け、中に入っていた手紙を取り出す。
封筒は縦30センチ程の大きな物だったが、中に入っていた手紙はそこまで大きくなく、封筒の半分も使っていなかった。
(手近にあったもので何とかした感が強いな。急がなくて良いからもうちょっとちゃんとしろよ)
「えっと……。」
琴子は手紙を読み進めて行く。
「……北の魔王と、戦うから戻って来いってこと……?」
そして読み終わったらしい琴子の顔が、だんだんと青ざめていく。
(まぁ、それもそうか。前にこいつ(琴子)に聞いた限り、元いた世界ではそこまで戦いや戦争ってのは身近な物ではなかったっぽいからな。そういう反応が普通か。)
(琴子、まぁ安心しても良いと思うぜ。戦うってもお前は後ろで見ているだけで良いと思うからな。命に危険はないだろ)
「いや……そういう事でも無いんだけど……。こんなに簡単に魔王同士って起こるんだなぁと思って…」
(…魔王同士の戦いなんてそう簡単に起こる物じゃ無いぞ。今回はこっちが一方的に吹っ掛けただけだ。)
「それに……この学園に魔王の幹部が来てて……、クルスさんが拐われたなんて……」
(まぁ、俺達も魔王の幹部と、魔王だけどな。後まぁ……クルスは拐われた訳じゃ無いんだがな)
ラーヴァは自分で気付いていなかったが、最後の方は声が小さく独り言のようになっていて、琴子には聞こえなかった。
(で、そこには何時までに帰ってこいって書いてあるんだ?)
「出来れば今日中……遅くても明日までにはって……」
(ほーん、じゃあゆっくり準備して明日帰るか)
「いやでもこれ……出来れば今日中にって……」
(出来ればだろ!?今日も授業で俺達は忙しいんですー。帰れませーん)
「……帰りたくないの?」
(帰りたくないね!!北の魔王と戦うなんてまっぴらだ!)
そうラーヴァが言った時、琴子達の教室のドアが勢いよく開いた。
そしてそこに立っていたのは、
「琴子様、今すぐフィンセに帰りますよ。荷物は既にここにまとめてあります。制服のままで結構ですので、さあ」
「むにむに…・」
まだ眠っているギョウゴを右の脇に抱え、左手には荷物が入っているのだろう鞄を持ったムガイだった。
(こいつも行動力の化身か……!)
それを見たラーヴァは、心底悔しそうにそう言った。
琴子達がフィンセに帰るため、学園の正門を抜けようとした時、背後から声がかかった。
「おーい!ちょっとまってくれい!」
「?」
声に反応し、琴子が後ろを見ると、スパーキーがこちらに走って来ていた。ペッタラペッタラと音のしそうな不安定な走り。そんな不安定な走りをしたせいか、スパーキーの息は長距離マラソンを走り終えた直後の様に切れていた。
「……はぁ……はぁ……いや、すまんすまん。引き止めてしまって」
「スパーキーさん…どうしたんですか?」
「それがね、私も北の魔王の戦いに連れていって欲しいんだ」
「!?一体なんで……?」
「いや、ユーノに「自分の学園の不祥事は自分で解決しろ!」って言われてしまってね。クルス君を取り戻しに行こうと思うのさ」
「……しかし、北の魔王との戦いはかなり激化する事は確実、死者も恐らく出ます。生半可な覚悟では確実に死にますよ?」
ムガイが冷たく言う。……だがその額には少し汗が浮かんでいた。恐らく抱えているギョウゴが重いのだろう。
「大丈夫大丈夫!!俺こう見えても強いから!!……ムガイ君も気付いてるんだろう?」
「……」
ムガイの冷たい質問を、スパーキーは明るく笑い飛ばした。
「後、家からはもう一人来る奴が居るだろうねぇ。…さっき見てきたら、何か準備してたし」
「それって……ミギワさんのことですか?」
「おっ、やっぱり分かっちゃったか。そうだね、まぁ、彼は僕と違って友人を助けるために戦場に向かってるんだ。覚悟は少なくとも僕よりは出来てるだろうね」
「…はぁ、死んでも僕は知りませんからね!早く行きますよ!既にニアホースの馬車を待たせてあります!」
ムガイはそう言うと、つかつかと早足で学園から出ていった。
琴子達も、慌ててそれを追いかけたのだった。
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