ニラニウス学園-14
「俺の生まれ故郷は、ここから北にかなり離れた場所にある辺境の地でな。運の悪い事に魔王の城にもまぁまぁ近かった。」
クルスは語り出した。
「まぁ、それでも土地は野菜が全く栽培出来ないと言う程でもなかったし、先祖代々そこに住んで居たからな。それなりにそこら辺の弱い魔物を狙って狩ったりして、暮らしていたんだ。」
「人口は百五十人くらいだったかな……。子供もそれなりに居たから、普通にそこで俺達の世代も暮らしていたと思う。」
「ただ、俺が十六才になった年だった……。予想外の事が起こった。」
「近くの魔王城の魔王……。北の魔王が変わったんだ。」
「それまでの魔王は特に俺達の村に害は与えなかった……。自分から人間の町を攻めたりはあまりしなかったタイプの魔王だな」
「だが、次の魔王は違った。魔王になってすぐに、俺達の村を攻めて来やがったんだ。」
「何故かは分からねぇ……。まぁ、俺達の村の男は反抗した。俺達子供と女性を逃がす時間を稼ぐためにな。」
「だが、男達が魔王の軍勢に倒され、直ぐに逃げていた俺達に向かってきた。」
「俺の母親や他の女性達は、俺達を庇って死んじまった。それで俺達子供は近くの茂みに隠れてたんだが……、そこで攻撃がピタリと止んだんだよ」
「残されたのは俺達子供だけになった。それから俺達は、魔王が変わったという知らせを受けて調査に来ていたフィンセの兵隊に保護されたんだが……。」
「どうしても親を目の前で殺された奴らの心の傷は癒えなかったみたいだった。盗みを繰り返すようになっちまった奴も居れば、自殺しようとしちまう奴もいた……。まぁ、心が冷えきっちまったって訳だ。」
「つー訳で俺は考えた。そんな奴等の心をもう一度暖かくしてやろうってな。で、一番手っ取り早いと思ったのが、そいつらの親を復活させることだ。」
「それでその方法を調べるためにこの学園に入ってきた訳だが……、まぁそんな方法は無いとわかった。復活の魔法はあるらしいが、死んでから時間が経った死体に使っても無駄何だとよ。」
「だが、もう一つ方法が合った。あらかじめ用意された肉に、呼び出したい人間の魂を引っ付けて、一時的に復活させる方法……、まぁ俺が「ゾンビ」って呼んでる物だな。」
「で……俺はもうゾンビの魔法をほとんど完成させた……。後は本当の「肉」にその魔法をかけて、成功するか実験するんだが……、この「肉」を入手するのがかなり難しかった」
「この魔法が成功する条件に……乗っける魂と同じ種族の「肉」ではないといけないんだ」
「つまり人の肉……、まぁ、いきなりそれは無理だと思ったから、一応魔物で試し見ようと思ったんだ。だが!それもこの学園では無理だった。俺の想像以上にこの学園の規制は厳しかったみたいだ。ちっちゃい子も居るから、当然と言えば当然だ。」
「で、俺も後数ヶ月でここを卒業しないといけないから、新しい実験施設を探さないとって思ってた所なんだよ。……途中から関係無い事も喋ってたね。すまん!!」
そう言ってクルスは顔の前でパン!と手を合わせ、頭を下げた。手を合わせた時に鳴った音が、この話が終わった事を告げた様にも思えた。
「ま、そういう訳なんだな、琴子、満足したか?」
「はい……私何かとは比べ物に成らないほど壮絶な人生を送られて来たと言うことも……」
「はっは!止めてくれよ琴子ちゃん」
クルスはハハハ、と笑っていた。
(ま、こいつの村が攻められた理由は、北の魔王が、魔王になったからちょっと力試ししてみるかー……って思ったからだろうよ。あまりにも敵に手応えが無さすぎて帰ったんだろう)
(そんな……)
(別にあいつにしちゃあ珍しい事じゃない。北の魔王は俺と違って根っからの魔王、そして戦闘狂だ。今も時々ターゲットを決めては、戦いを挑んでるって話だ)
(ああ……)
ラーヴァはそう言って、何かを考えるように、手を口に添え、黙りこくってしまった。
その日の夜、琴子は昼にクルスから聞いた話の事を考えながら、眠りについた。
そして、ラーヴァに体の主導権が渡る。
「さて……クルスの野郎はあんな事言ってやがったが……。あいつがここを卒業して行く所はもう決まってる……。しかもあいつがこの学園を出て行くのは……今日だ!」
「ムガイ!!」
「はっ」
部屋にムガイが現れた。相変わらず、音一つ立てない。
ムガイの服は、前回この部屋に来たときとは違い、夜の闇に溶け込む黒い服で身を包んでいる。ちなみにこの服もシワひとつない。ムガイが、普段から手入れをしている証拠だ。
「ムガイ、今日は戦闘になる危険性がある。準備はしているな?」
「はい、もちろんです。」
ムガイはラーヴァの言葉に即答した。それだけ自信が有るのだろう。
「それじゃあ行くぞ。目的地は……クルスの研究室だ」
読んでいただきありがとうございます!