ニラニウス学園-13
琴子が教室に戻った時には、既に次の授業まで三分も残っていなかった。
「お!ちょうど良かった!三井、お前クロムに何かしたのか?」
琴子が教室に入って来ると同時に、アオメが琴子に話し掛けてきた。
「先生……すいません……私のせいで」
「いや、別にそこまで怒ってはいないんだが……。過去にも何回か似た様なことはあったしな。他の生徒は一旦隣の教室に移してる。……まぁ、今の問題はどうやってクロムを止めるか何だが……」
アオメがちらりと、教室の隅で荒く息を吐くクロムを見て言う。
琴子もつられてクロムを見た。もはや理性は飛んでしまっている。目が大きく見開かれ、頭に生えている角のせいで、完全に魔物に見える。
「先生……、クロムさんを止める方法、私に考えがあります!」
「何?本当か!?詳しく効かせてくれ」
琴子はクルスに貰ったビンをアオメに見せ、この中の液体をクロムにかければクロムを止められるかもしれないと説明した。
「ふむ……。しかしクルスか……。その液体が何なのか、詳細を聞いてきたか?」
「急いでいたので……、聞いてませんでした……」
「ううむ……。その液体が危険な物ではないと、または一般の生徒が作った物なら使っていたのかも知れんが……。」
(クルスは一般の生徒じゃねーのかよ)
「しかし……しょうがない。ゆっくり、ゆっくりやってくれよ」
「わかりました……」
琴子はクロムウェルにゆっくりと、音を立てないように忍び寄る。
「フゥー!!フゥー!!三井さん……三井さん……」
クロムウェルは何か小さな声でぶつぶつ呟いているが、琴子にはまだ何を言っているかわからない。
そして、琴子とクロムウェルの距離が一メートルを切った時、
突如、クロムウェルが動いた。
「三井さぁぁぁーーんっっ!!」
「!!」
クロムウェルが跳躍、琴子との距離を一瞬にして詰める。
「ぐぅ!!」
琴子はそのまま、両手を捕まれ、床に倒されてしまった。
(こいつ……!さっきより速くなってやがる……!)
琴子の中でラーヴァが呻く。
(でも……ここまで近くに来てくれたら確実にビンの中の液体をクロムさんにぶつけられるよ!)
琴子は右手に持った小さなビンを、放さないように強く握り占める。
(まずは右手の拘束をとかねぇとな……。炎で怯ませるか)
「あんまり怪我させたく無いけど……ごめんなさい!」
琴子の腕を掴んでいるクロムウェルの手の辺りに、小さな炎がぽうっ!と灯る。
「ぎっ!」
小さい炎だが、クロムウェルは本能的に炎を避けようとして琴子の手を離してしまった。
「今だ!えい!!」
琴子はビンの蓋を口で無理やり開け、中の液体をクロムウェルの顔にぶちまけた。
「ぎぃああああ!!!!」
クロムウェルは甲高い叫び声を上げ、鼻や口に入ってしまった液体を吐き出そうともがく。
「ぎぎ……ぎ……ほぁ」
だが、その動きは段々と鈍くなり、ついにはクロムウェルはバタン、と床に倒れてしまった。
「え!?え!?クロムさん大丈夫!?」
「ちょっと見せてみて!」
駆け寄って来たアオメがクロムウェルの状態を確かめる。
「うん……ただ眠っているだけだ……。その液体は睡眠薬か何かだったのかも知れないな。俺は取り敢えずクロムを保健室に送ってくる。三井は隣の教室にいる皆にもう戻って来てもいいと伝えてやってくれ」
「わ、わかりました!!」
「うにゅにゅ……魔法……魔法……」
クロムウェルが保健室に連れていかれ、何とか琴子は無傷で次の授業に入ることが出来た。
全ての授業が終わり、放課後。
琴子はクルスにお礼を言うため、再び研究室に来ていた。
室内にはクルスと、そのまま今日の授業をサボっていたのであろうミギワがいた。
「はっは、お礼をしに来てくれたのか。そんなたいした物を渡した訳でもないのに」
琴子がお礼を言うと、クルスは意外だったのか笑った。
「それで……何だったんですか?この液体」
「これはな、俺がこの学園に入ってきて初めての課題で作った薬品、「グッスライム」だ。このスライムが体内に入った人は、どんな状況でも確実に寝ることができる、ってもんだよ。あまりにも開発に手間がかかるから、作るのを止めたんだけどな。たまたま残ってて良かったよ。」
「ほっ……危険な物じゃ無くて良かったぁ……」
「はっはっは、僕がそんな人に危険な物を渡す人間に見えるかい!?」
「「見えます」」
琴子とミギワの声が重なる。
「こんなゾンビを大量に開発するような野郎な安全に見えるわけねぇだろ」
ミギワが言う。確かに、と琴子はつい思ってしまった。
「ふ、ふん!確かに今は危険な物かも知れないけどね!!もう危険じゃ無くなる一歩手前にまで来てるんだ!もうそんな事言わせないぜ!」
クルスは少し声を荒げて言い返した。
そんな様子を見て、琴子は、
「そう言えば……何でクルスさんはゾンビ何て作っているんですか?普通考え無いですよね?ゾンビ作ろうなんて…」
ふと、そう思った。
「あーそれについてはな、こいつには似合わない御大層な理由が有るのよ。クルス、説明してやれよ」
「……わかった。琴子ちゃん。少し長くなるかも知れないんだけど、聞いてくれい。」
そうしてクルスは、自分の過去について、少しだけ語り出した。
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