ニラニウス学園-8(夜)
ニラニウス学園内にある転移石は、夜になると生徒が勝手に外に出ないようにするためか、全面的に停止する。
そのため、夜のニラニウス学園の校舎内に生徒はほとんどいない。
校舎内の明かりは全て落ち、日本の夜の学校よりも廊下は暗く、冷たい。
辺りが暗いと、何がどこから出てくるかわからない。そのため、小さな水滴が落ちる音や、ちょっとした風が通りすぎる時に発生する音何かにも、どうしても体が過剰反応してしまう。普通なら。
ラーヴァは魔王だ。その点、普通ではない。
魔王は光の中より真っ暗な闇の方がメインフィールドだ。
(ま……怖い事には変わりねぇんだが……)
ペタペタと、少女の小さな足が床を踏む音だけが、暗い廊下に響く。
現在、第二校舎、二十九階。ムガイが言っていた階の一つ上の階である。
(確かに……下の階に強い魔力の反応がある……。だが今日のもんじゃねぇな……。一週間前とか……そんぐらいか?)
コツン、コツンと、ラーヴァは階段を下りる。
(しかもこの魔力反応がある場所……。)
ラーヴァは二十八階に大量に設置された研究室に見向きもせず、廊下を魔力反応に向かって、真っ直ぐ歩く。
そして、その場所にたどり着いた。
「……やっぱりか……。」
思わずラーヴァは呟いた。
ラーヴァが足を止め、顔を上げた場所。
そこは昼間、琴子がミギワ達と出会った、クルスの研究室だった……。
がちゃ。
ラーヴァがクルスの研究室のドアノブを回す。
だが、当然ドアは開かない。
(さすがに戸締まり位はしてるか……)
次にラーヴァは、ドアノブ右手を向ける。
(魔法的な物でロックされてるんなら簡単に外せるんだが……。ちっ!こんなとこで普通のやつかよ!めんどくせぇ……)
ラーヴァの右手がドアに物凄い勢いで叩きつけられる。
(琴子の体の事も気遣って力は押さえ目にしたんだが……、やり過ぎたな。)
ラーヴァの足元には、数秒前までドアだった木材やらなんやらが散乱していた。
(後で直しとこ)
散乱したドアの部品を飛び越え、ラーヴァは無事研究室に入る事ができた。
(さて……さっさと用を済ませますかね)
部屋の奥には大きな窓があり(昼間はカーテンが何故か閉められていて気付かなかった。電気止められてるんなら開けとけ!)、ラーヴァはその近くに移動する。
(ここがムガイの言っていた魔力が一番強い場所だ……。)
「「魔眼」」
ラーヴァの目の黒目の部分が、じわじわと赤い汁を透いとる半紙のように、端から赤く染まっていく。
ラーヴァの能力「魔眼」が発動した。
「魔眼」は、見たもの全ての状態、能力、年齢から記憶まで、ありとあらゆる物を読み取る事ができる。
だが、その異常なまでの性能のおかげが、習得するのに莫大な年月を要する。なので習得出来るのは寿命の長い魔族、その中でも気の遠く成る程の年月を「魔眼」の修行に捧げる事のできた、ごく一部だけである。
(スズトの野郎はこれと同じ性能の「神眼」をたった一ヶ月程度で物にしやがったがな……。ったく、マジで萎えるわ!)
そんな事を考えている内にも、研究室に残された魔力の記憶が、ラーヴァの頭の中に流れ込んでくる。
(ふんふん……成る程、ってなるとムガイの言ってたネイビスとか言う野郎は近々もう一度ここに来やがる……。そこを狙い撃ちさせて貰うかな……。んでもって、色々情報ゲロってもらうぜぇー)
ニタァ、とラーヴァは邪悪な笑みを浮かべる。
「さてと……、んじゃ、ここにはもう用はねぇ。部屋に帰りますかなぁ」
そう言うとラーヴァは、クルスの研究室を後にした。
次の日、朝。
(おい!起きろ琴子!!朝だろうが!!)
「ムグゥ……」
琴子は頭の中でガンガンと響く声で目を覚ました。
「あ……おはよう」
(おはようござーあす!!わかったから早く着替えろ!!部屋の外から結構音がし始めた!おそらくこの寮の奴らは大体起きてきてるぞ!)
「ふぇ……もうそんな時間!?」
琴子はベッドから飛び上がり、近くの壁に付けられたハンガーに掛けられた制服を取り、急いで寝間着から着替える。
(ったく…最初の朝なんだからもっと余裕持って行動しろよな!)
「ご……ごめん……」
琴子は何とか着替えを済ませ、部屋の扉を開け、廊下に出た。
「うわ……」
そして絶句。驚きすぎて空いた口が塞がらない。
廊下には人が溢れていた。
ほとんどが琴子と同年代か、またはちょっと上。少なくとも十三から十四歳くらいまでが最高年齢といったところか。
そして、その人の波は、真っ直ぐ一つの場所に向かっていた。
その先にあるのは、「食堂」と書かれた札が下げられた、やたら入り口の広い部屋だった。
「あっ!朝御飯……!」
それをなんとか背伸びして確認した琴子は、食堂に行こうとするも、人が多すぎて思うように進めない。
(ああ!?なんだこれりゃ!!この廊下設計ミスかなんかじゃねぇのか!?)
ラーヴァが琴子の中で叫ぶ。琴子もそれには少し同意だった。
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