部下たちとの出会い
ドアを開けて現れたのは、長い薄緑色の髪をした、切れ長の目でこちらを見ている女性だった。
ちなみに、服は黒をベースとして、肩から肘の部分にかけて緑の太い線が入った、いたって普通の服である。
「……誰です?または私が部屋を間違えましたか…?ここは魔王様の寝室のはずですが……」
女の人……ベルゼブブの目がスッと冷たくなり、声が低くなる。
確実に警戒している。
「あ、あの……私、魔王です」
「……冗談ですよね……?」
ベルゼブブの声に少し怒りの色が混じる。
「えっと……少し前に勇者と決戦したのを覚えてませんか?」
「もちろん、覚えています。魔王様も勇者も、どちらも決死の力で戦っていました。残念ながら魔王様は敗北なされてしまいましたが……」
「そこで……私は勇者に今までの悪事への罰として、力を弱められ、こんな体にされてしまったのです!!」
それを聞いてベルゼブブは、驚いたような、呆れた様な顔になった。
「………」
(……今までの読書で培った語彙を全て使いました……。どうですか!!)
「……不思議なのですが、あなた様が纏っている魔力……それが完全に魔王様と同じ物なのです……。」
すこし、ベルゼブブは戸惑っているようだった。
「そうですね……。1つ質問させてください。貴方の「中」に魔王様はいらっしゃいますか?」
「……はい、良く喋っていて、元気そうです」
「そうですか、とりあえず、貴方のその言葉を信じることにしましょう……それでは魔王様、とりあえず皆にその姿を見てもらう必要があります。1階の大広間に行きますよ」
「はっはい!!」
(ふぅ……ギリギリセーフだな!中々やるじゃねぇか!)
「かなり緊張した……」
琴子はふぅ……と緊張を解くように息を吐いて、とてててっとベルゼブブについて、部屋を出た。
「ここが……大広間……」
琴子は、あまりの大きさに驚きながら、グルリと辺りを見回した。
教会のような、丸く高い天井には、ガラスがはめ込まれており、太陽の光を通して、キラキラと光っており、とてもキレイだ。
(俺はもうちょっと暗くてダークな感じにしてほしいって言ったのに勇者の野郎が無理やりな。)
琴子が意外そうな表情をしていたのに気付いたのか、ラーヴァがそう言った。
床には、油断すれば足が取られて転けそうになるくらいフカフカに仕上げられた絨毯が敷かれている。
「それでは魔王様、あちらに」
ベルゼブブが手で示した方向には、この大広間の天井にも届くかと言わんばかりの大きさの椅子が、広間全体を見れるように少し高い所に置いてあった。
「座れ……ってことですか?」
「はい、魔王様専用の椅子です。」
(速く座れ!そしたら面白い事が起きるから!)
ラーヴァが、急かすように言う。
琴子はとてててっと、絨毯の上を走り、ピョコンと、椅子の上に飛び乗った。
すると、次の瞬間、
「皆の者!!姿を見せよ!!」
ベルゼブブの声が、大広間に響く。
その声に呼応するように、大広間のいたるところで、黒い「もや」が発生した。
「おいおいおいベルゼブブぅ?ふざけてんのかぁ!?どうしてそこの魔王様の椅子にそんなガキが座ってんだよ!!」
その、いたるところで発生した「もや」の1つから、目付きの鋭い、野性的な顔立ちの男が現れた。
「「ガイム」、この方は魔王様だ。口を慎め」
ベルゼブブの刺すような声が、目付きの悪い、ガイムと呼ばれる男に向けられる。
「ああ?なにお前までバカなこと言ってんだよベルゼブブ!!こんなん魔力見れば……」
そこまで言って、ガイムの言葉が途切れる。
「んな……魔王様……?」
ガイムは驚きを隠そうともせずに、大きく目を見開き、動きを止める。
「相変わらず……ガイムはもう少し考えて発言してください。こちらがヒヤヒヤしますよ。……それと魔王様、お姿がかなり変わられたようですが、私は気にしておりませんので」
そしてさらにその近くの「もや」からは、ガイムと対照的な、メガネをかけた黒髪の目が細い、冷静そうな男が現れた。
「うるせーよムガイ!!てめぇだって内心驚いてるんだろうが!!」
ガイムが必死になって言い返す。
「ふぉっふぉ、中々面白いことになっておりますなぁ」
椅子の後ろから、しわがれて、ゆったりとした老人の声が聞こえた。
琴子が後ろを向くと、いつの間にか椅子のとなりに、ボロボロのローブを着た、立派な白い髭を蓄えた老人が座っていた。
「わしはボルグと言います……。ボル爺とでも読んでくだされ」
ボルグはそう言うと、フォフォフォ、とまた楽しそうに笑った。
その様子を見て、ベルゼブブが、
「……今集まっているのはこれだけですか?エントラとバラ、それにガランはどうしました?」
と、やや低い声でいった。どうやら召集したにも関わらず来ていない者がいるので、少し怒っているらしい。
「エントラさんは、朝から早々に町に買い物に行っておりましたよ。バラさんは自分の部屋から出て来ておりませんなぁ。ガランは……モンスターでも狩に行っているのではないじゃろか?」
と、ボルグが、ベルゼブブの怒りを嗜めるように、優しい声色で、そう言った。