魔王と勇者-2
「いや、新入生用パンフ」
「そういうことじゃねーから。なんで急にこれが出てきたんだよ」
ラーヴァがパンフレットをバンバン床に叩きながら言う。
「お前に入ってもらおうと思って」
「なんか話が合ってねーな。」
「冗談冗談、順を追って説明するとね」
そして、スズトによると、
「まず、今回の白竜の異変の原因を調べるために白竜の体を解剖したら、白竜の体の中から、白竜の物ではない全く異質な魔力反応があった」
「あぁ?そんなもん当てにして良いのかよ?」
「恐らくな、かなり上手く隠されてて見つけるのに苦労したらしい。……で、うちの優秀な捜索隊がその魔力の出所を探った所……、「学園都市ニラニウス」から来たものだとわかった」
「あー成る程、何か分かってきたわ」
「で……その学園都市ニラニウスの中でも一番の規模を誇る魔法施設…学校が怪しいと思った訳で…、お前達をそこの調査のために一ヶ月間の留学生としてねじ込むから、よろしく」
「え?なに?もう決まってんの?」
「うん」
「おまっ……!うっそぉー!そりゃねぇわぁ…!」
「ほら、何でも屋何だから、お客様からのお願いは聞かないと。それにこれはかなりの「善行」っすよ!かなりお得っすよ~」
「店にも依頼を選ぶ権利あるから!ああ、くそ!じゃあこのパンフ貰ってくぞ!」
「はーい、ありがとうござぃまぁーす。二週間後に出発だから、それまでによろしくねー」
ほけほけとしたスズトの声を背に受け、ラーヴァは魔王城へと帰って行った。
「成る程……それはまた厄介な事に……」
魔王城に帰ってすぐ、ラーヴァはベルゼブブを呼び出し、事の顛末を話した。
「それに今気付いたんだが、あいつパンフレットの中にこんなメモ残してやがった」
一辺が10センチ程の正方形の紙に、
「ニラニウス学園は初等部、中等部、高等部と別れてて、それぞれに一人ずつ入れたいと思ってる。精鋭を用意しておいてくれ。あと、出来れば体格や見た目を部に合うようにしてね。初等部にベルゼブブとか突っ込まないように!」
「……」
ベルゼブブが紙をみて少し微妙な表情になった。
「で、だ。出来るだけ行く奴等は早めに決めたい。……つーか今一応決めよう。」
「分かりました。では初めに、高等部には誰を入れますか?」
「ボルグはじいちゃんだから論外だし……、ベルゼブブ、お前もちょっと合わねぇな……。適度にコミュニケーションも取れてきっちり任務もこなすやつ……、ムガイにするか」
「たしかに、それが良いかも知れません。ムガイの能力は隠密にも向いてますからね。では、次は中等部……」
「そうだな……」
ラーヴァは少し考え、
「幹部の中から誰か一人……。ギョウゴにしよう」
「では……初等部はどうしましょう……?」
「それなんだよなぁ……。俺ら(魔王軍)の中にそんな小柄で子供っぽいやついたっけ……?」
うーん、とベルゼブブとラーヴァは懸命に考えるが、中々答えは出ない。
「……あ、」
5分程たったころ、ラーヴァが小さく声を上げた。
「居たわ……」
「……?誰ですか?」
「俺だよ。初等部には俺が行けばいいんだ……!」
こうして、学園に潜入するメンバーが決まった。
二週間後……。
「おっはー魔王軍の皆!元気かな!?」
「何でお前そんなテンション高いんだよ!」
「そりゃほらー、勇者さんも天敵が一時でもこの町からいなくなって嬉しいんでしょー!」
「いや確かにそういう所も無くはないけどねギョウゴちゃん。そんなドストレート言われるとさすがに傷つくよ?」
ギョウゴと呼ばれた健康的な褐色の肌をした少女は笑いながら言った。
「……しかしギョウゴ、その服はなんだ?」
ギョウゴの服装を見たムガイが言う。
「え?普段着ですけど……」
「嘘だろ……赤いビキニが普段着って何なの?エリート南国人過ぎんだろ」
「ムガイさん、そんな無表情で突っ込まれると対処に困ります……。」
そう言いながらギョウゴは足のラインにピッタリと合ったズボンを「リクエイト」した。相変わらず上半身はビキニだけでいささか心もとないが……。
(よし……準備はよさそうだな。よしスズト!行くぞ!……っても聞こえてねぇんだったな。おい琴子、もうそろそろ出発しようって言ってくれねぇか?)
「うむ、ではそろそろ出発しようか」
「おっ、いいねいいね。じゃあ、町の外に馬車を待たせてあるから早速行こう!」
そして琴子達はぞろぞろとスズトについていった。
「さぁ、これが今回用意した馬車だよ~!」
スズトの指差した場所に有ったのは、全身に鎧を纏った二体の屈強な馬。そしてそれに繋がれている丸まったダンゴムシのような球体だった。
「フリュスでも最新式の馬車だよ。これなら何とフリュス~ニラニウス間を一時間で移動出切るんだ!なんと今までの物よりも三十分の短縮に成功しております!しかも馬にはとても知能の高い馬、「ニアホース」を採用していて……」
「よっしゃあー、早速乗ろうぜ琴子さま~」
「うむ、楽しみなのだ」
「楽しむのは良いですが任務はきっちりこなしますよ」
「おおっと……誰も聞いてくれない!さすがに勇者と魔王軍だからってそれはやり過ぎなんじゃないの?ねぇ、人の話はちゃんと聞こうって言われたでしょ……」
「オオォーン!!」
勇者の悲痛な叫びは、全員を乗せた事を確認した馬の、出発のいななきによってかき消された。
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