魔王と勇者
白竜討伐を終えた同日。深夜十二時。
魔王「ラーヴァ」は、琴子の体を操る主導権を再び握り、ベッドから降りた。
(さて…今日は少し目的があるからな。悠長にはしていられない。)
魔王は部屋の窓を開け、外を見る。
さすがにこの国1の大都市の大通り。まだ開いている店の光が大量にあり、大通りは昼間のような明るさだった。
(ちっ、こんな遅くまでどんちゃん騒ぎしやがって……。)
普段夜は11時に寝るラーヴァはその光景を見て少し毒づく。
(ここまで人の目があるとさすがに何も無しじゃ見つかるな……。)
そう考えラーヴァはクローゼットに掛けてあった黒地のマントを一つ、クリエイトで自分の体のサイズに調整した物を作り羽織る。
(「宵闇のマント」…全魔法耐性向上から隠密まで、ありとあらゆるスキルを持つ……。)
ついでに汚れや汗を自動で洗浄する機能も付いてるので、衛生面も安心!。な一品である。
そのままラーヴァは窓枠に足をかけ、夜の町に飛び出した。
フリュス城の二階の一番隅にある一部屋。
きらびやかな城の中にポツンと置かれた質素な木の扉。
一目見ただけでは、物置か何かと勘違いしてしまいそうだが、その部屋はれっきとした人が住んでいる部屋である。
「ふ……う今日も疲れた……。」
その部屋の住人の男は大きく息を吐き、眉の少し上に止めた黒髪をクルクルといじる。
布地の動き安い若草色のパジャマを着て、ドサッとベッドに倒れこんだ。
(ふぅ…明日は朝早くに起きる…)
男が目を閉じ、だんだんと眠気が大きくなって来た時、
「うらっせぇぇいい!!」
「どわぁ!!」
部屋の窓がズガン!と勢い良く開き、小さな影が部屋に飛び込んで来た。
「っつ……だ、誰だ?」
男が閉じていた目を擦りながら、その人影を見る。
「って!!ラーヴァ!?」
「おう、ちょっとお前に用事があって来たぜ。「勇者」スズト」
それは、魔王軍のボスにして、今は小さな少女の外見となっている「魔王」ラーヴァだった。
勇者と呼ばれた男、スズトはとても平凡な顔立ちをしていた。
黒髪黒目、少しトロンとした目に高くもなく低くもない鼻。
身長は171センチ。
どこの町にでも一人は居る、「住民A」と言った感じだ。
「んで…僕になんの用なんだ?」
「あれ?客が来たと言うのにお菓子の一つも出てこないんですか?あっれー?勇者様って案外非常識…。」
「……」
早く寝たいと思い早々に話を切り出したスズトだったが、ラーヴァの言葉に早速その思いはぶち壊された。
トクトクトク……。
「ほらよ」
「……これ、紅茶茶すけど」
「ん?よく見ろ、中に砂糖が入ってるだろう?」
「てめぇの頭どろどろに溶かしたろか?」
少女の可愛らしい外見からは想像もつかないドスの聞いた低い声が発せられた。
「冗談だって…。ほらこれ」
スズトは部屋に置かれた机の中から小さな桃色の紙袋を取りだし、ラーヴァの前に置く。
「お?何だこれ?」
「最近町で流行りの殺人的な甘さを誇るお菓子、「魔王の死骸」だ。」
「何お前喧嘩売ってんの?せめて名前は伏せろよ。」
「いや、このお菓子包みの裏に「このお菓子を魔王に与える場合には必ずこのお菓子の名前を教えて下さい」って書いてあったから」
「ピンポイント過ぎるだろその表記。絶対ベルゼブブとかに見せんなよ。その店確実に壊されるぞ」
「……ホオジロがガイムに一個叩きつけたって言ってたぞ」
「……そう」
ラーヴァは包みを開け、なぜかガタイの良い、頭から二つの角の生えた男性の形に彫られたチョコのようなお菓子を見る。
「ちょっと待ってこれ俺やん。マジで何なのこれ」
そう言いながら、ラーヴァは「魔王の死骸」を自分の口に放り込み、ガリッと噛み砕いた。
「普通に上手いのがイラつくな」
「……で、俺に用って何なんだよ?」
スズトは再び、ラーヴァにそう聞いた。
「ん…ああ、お前、俺にまだなんか魔法掛けてんだろ?」
「…はぁ、もう気付いたのか……」
「ってことは、なんかあるって事だな?」
「ああ、厳密には君にじゃなくて、その体の子にだけどね」
「で?何したんだ?答えい」
「……分かった、答えるよ。その子に掛けた魔法は「レイカ」。ごく一般的な気持ちを落ち着かせる魔法だよ。」
「……ああ、だからこいつがこんなに冷静なのか……。ん?待てよ、こいつにいつ魔法使ったんだよ?」
「君らが白竜の依頼を受けに城に来たときだよ。君の体に選ばれた子が想像以上に幼かったものだから、急に異界に来た事や母親とかに会えない事からパニックになってしまわないように一応使っておいたんだけど……」
「あ、そう……。なんだ、そんな下らない魔法だったのかよ。心配して損したわ。じゃ、帰って寝る」
ラーヴァがそう言って、部屋に入ってきた窓から出ようとした時、
「あ、ちょっと待って。……お前、早く元の体に戻りたいよな?」
「あったりまえだろ。だから何でも屋なんてやってんだろうが。」
「じゃあ、そんなラーヴァ君に朗報があります。そこに座ってください」
ラーヴァは不思議そうな顔をしていたが、朗報と聞いて素直に座った。
「はい、それではこれを見てくださーい」
スズトが机の上から一つのパンフレット持ち、ラーヴァの前に置く。そこには
「「ニラニウス学園新入生用案内書」…なんだこれ?」
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