白竜ヲ討伐セヨ-終
「あっ!がぁぁぁ!?!?」
白竜の全身に強烈な痛みが走る。
(ぐ……あ、いつぶりだ……ここまでのダメージを受けたのは!)
ガイムの拳が突き刺さった部分から、透明な液体が溢れ出す。
「あれは……初めて見ますね。白竜の血ですよ。」
ベルゼブブが琴子の目を自分の手で隠しながら言う。
「白竜の血は、そこらの天然水などとは比べ物にならない程の透明度を誇ると言われています……。少し飲んでみたいですね」
「血を……」
ベルゼブブの発言に若干琴子がひいているが、ベルゼブブは全く気づいていていない。
(まずい、速く傷口を修復しないと……!)
白竜が傷口に手を当て、回復の「魔法」を使おうとした。
(!、魔法封じられてんじゃねぇか!)
「打つ手無しって感じだな」
「!」
いつの間にか、ガイムの右腕が更なる一撃を加えようと振り上げられていた。
(終わりかよ……!)
次の瞬間、白竜の目の前は真っ暗になった。
ボシュ!
白竜の首が、ガイムによって切断された。
天然水のような白竜の血が、日の光を反射し輝きながら、辺りに撒き散らされた。
一つの命が失われた光景にしては、美し過ぎる物だった。
「琴子様!もう来ていいですよ!」
ガイムの声が琴子の耳に届き、サラマンダーがガイムの立っている場所に動き出す。
「ガイム、案外危なかったんじゃないですか?」
「あ!?そんなわけねーっーの!」
「炎柱のトラップに引っ掛かりそうになった時はヒヤヒヤしましたがな」
「んなっ!ボルグまで……、俺の耐久力の高さ知ってるだろ!?俺とこのローブが有れば大丈夫だってのに……」
ガイムはベルゼブブ達の言葉に言い返しながら、白鬼を解除。元の姿に戻る。
「琴子様は、……大丈夫でしたか?氷柱が一つ行ってしまったと思うのですが……」
ガイムが琴子を少し気遣ったのか、出来るだけ優しい声で琴子に問う。
「うむ、全く平気じゃったぞ!」
「よかった……。」
ガイムはその言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
「それでは、フリュスに帰りますか。ボルグさん、白竜の死体を。」
「了解じゃ。「圧縮」」
ボルグがそれだけ言うと、地面に横たわった白竜の死体が、手のひらサイズの丸く白い石になった。
「ほっほ、やはりあの白竜はかなりの強者だったようですな。とても質の良い石になりましたわい。」
ほっほっほ、とボルグは嬉しそうに笑いながら、地面から白竜が姿を変えた白い石を拾い上げ、自らのローブの懐にしまった。
「こるるる!!」
全員が背中に乗った事を確認したサラマンダーがいななき、もと来た道を戻り始めた……。
フリュス城の王の間。
天井に設置されたガラスからは、夕日の赤い光が差し込んでおり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そんな幻想的な雰囲気とは縁遠い魔王軍のベルゼブブ、ガイム、ボルグは、そんな光景に見向きもせず、ヴァノウに今回の任務の報告をしている。
「ほう、白竜が人型に……。」
ヴァノウはボルグから渡された石をまじまじと見つつ言った。
「白竜は人型になることでここにいるガイムと同等かそれ以上の力を発揮していました。……この白竜が特別なのかも知れませんが、白竜が人型になると言う話は聞いたことがありません。……なにか人為的ななにかが加わっているのでは?」
「ふむ……成る程、貴重な情報感謝する。取り敢えず白竜の体を調査して見よう。ボルグ殿、この石、元の状態に戻せるか?」
「わかりもうした。そいゃ!」
ボルグが杖で床をゴブッ(絨毯が敷いてあり、音が上手くでなかった)と叩く。
すると、白竜の体は死んだ時の人型の状態に戻った。
「ホオジロ、これを地下の研究施設へ」
「はい」
部屋の隅で控えていたホオジロが白竜の死体を布で包み、部屋を出ていく。
「それでは、報酬を出そうか。「グレイド」」
ヴァノウが魔法を使う。すると、ベルゼブブ達の前の空間が歪に曲がる。
その空間から現れたのは、真っ黒に塗り潰された刀であった。
柄から持ち手、刃の部分まで、真っ黒。夜の闇にも似たその黒は、見るものに自然と恐怖を与える。
「……!それは……!」
ベルゼブブがその刀を見て、大きく目を見開く。
「ああ、黒刀「常闇」だ。普通にそちら側に返すとなるとかなりこちら側から反対意見が出てしまってな。こういう形となった。」
「成る程……。」
ベルゼブブが常闇を両手でしっかりと握る。
(……)
ラーヴァは何も言わなかったが、何か色々な感情が混ざったようや複雑な表情で、その光景を見ていた。
「それでは、この一件、見事であった。深く、感謝する!」
ヴァノウが深く頭を下げた。
「白竜討伐」完了。
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