白竜ヲ討伐セヨ-2
森の中は先程までの草原とは違い、二メートルから三メートル程の巨木が乱立し、中々真っ直ぐに進めない地形になっていた。
「こるるる……」
サラマンダーが動きずらそうに喉を鳴らす。
それもそのはず、地面からは巨大な木の根が土を持ち上げ顔を見せており、所々にある岩には大量の苔が生えており、サラマンダーがいなければ琴子は歩く事すら苦戦していたかもしれない程の地形だ。
「しっかし…白竜の影響かぁ?魔物が全くいねぇな。ここら辺のやつらは誰かれ構わず襲ってくる奴ばっかりなのによ」
サラマンダーに揺られながら退屈そうに言う。
「うーむ……。ここら辺の魔物は山脈の異常をキャッチしてどこか別の場所に逃げてしまったのかもしれんのぉ」
「それは……違うみたいなのだ」
琴子がサラマンダーから少し離れた所にある開けた場所を指差しながら、ボルグ達に声をかけた。
「む?なんじゃ」
ボルグが琴子の指の方向に目を向ける。
「ほほ……逃げたわけじゃなかったんか…」
ボルグが驚愕の声を上げる。
そこには、三メートルある木々をはるかに越える大きさの、魔物の死骸の山があった。
「うおっ……こりゃえげつねぇ。ここから見えるだけでもゴブリン、ブロックボア……タイタンローズもいるな。」
「白竜の食料でしょうか……。何にせよ、ここはもう白竜の縄張りなのかもしれません。」
「ほほっ。気を付けんとのう」
流石魔王軍の大幹部と言うべきなのか、超巨大な死体の山を見ても、平然としている。
「ここで待っていれば、じきに白竜がやって来るかも知れませんね。」
「それなら嬉しいのじゃが……」
「それならあそこの死体の山荒らせば、食料盗まれたと思って白竜が来るんじゃねぇの?」
「……特にデメリットもないですし、やってみますか」
「ええ……不謹慎じゃ……」
(とりあえず俺らは魔王軍だぞ。不謹慎も何もありゃしねぇ)
琴子の言葉はラーヴァによってバッサリやられた。
「んじゃ……取り敢えず俺が行ってきますかね。リクエイト、「白鬼」」
そう言ったガイムの両腕に、琴子がリクエイトを使った時にも現れた、黒いドロドロした物体が現れ、ガイムの腕にまとわりつきながら、物体の形に変化していく。
そしてガイムの両手を完全におおい、巨大な腕の形になると、ピシッ、と表面に亀裂が入り、純白の輝きを持つ腕に変化した。
「白鬼……?」
「ガイムの戦闘用の武器です。ありとあらゆる物を粉砕する巨大な手甲。」
ベルゼブブが淡々と説明してくれたが、琴子にはいまいち理解が追い付かない。
ガイムの両手は、純白の金属に被われ、太さが元の三倍程になっている。
あんな物で殴られたら……。琴子は少しそう考え、ゾッとしてしまった。
「しゃあ……荒らしてやるから覚悟しろよ!」
ガイムは巨大な白い腕をぐるぐると回し、サラマンダーの背中から跳躍。一瞬で死体の山の下に到着する。
「よい……しょおお!!」
ズゴォォォン!!と死体の山にガイムの巨大な右手が叩き込まれる。
ベギョグチャボキボキボキィ!!と肉がちぎれる音や、骨が折れる音が混ざりあった音も同時に起きたが、琴子には聞こえなかった。
ぐしゃぐしゃ!とガイムが殴った場所から山が崩れる。
「あっ……やべ、下の方殴ったから上が崩れてきた」
そう言いながらガイムが上を見ると、既にガイムのちょうど上にも、二体の巨大な、体毛が四角い猪、ブロックボアが降ってきていた。
「ちっ!めんどくせぇなっ!!」
そう言ってガイムが降ってきたブロックボアから身を守るため、右手を上に振りかぶったその時。
「キュオオ!!」
甲高い鳴き声がブロックボアの上からガイムに降り注いだ。
「っと!ラッキー!!もう来やがった!!」
ガイムは二体のブロックボアを右手で繰り出していたパンチで撃墜、だが全く油断せず、上を見る。
そこには、全身が透き通った白金の鱗で、蛇のような巨大でしなやかな筋肉の塊の全身を武装し、とんでもなく大きな二つの翼を大きく広げて、悠々とガイムを見下ろす白竜の姿があった……。
読んでいただきありがとうございます!
次回から本格的に白竜との戦闘です。